第5回東奥文学賞


◇大賞(賞金100万円)
 「月光の道」  花生(はなおい)典幸(八戸市)

 第5回東奥文学賞は、大賞に花生典幸さん(八戸市)の「月光の道」が決まりました。

 第5回となる今回は、県内外から48作品の応募があり、1次選考で5作品を選定。弘前市出身の文芸評論家・三浦雅士さんが最終選考を行いました。

 東奥文学賞は2008年の東奥日報創刊120周年を記念して創設。県内在住者および本県出身者を対象に新人作家を発掘・育成するのが目的で、ジャンルを問わず、小説(400字詰め原稿用紙100枚以内)を募集しました。

 贈呈式は2月に青森市の東奥日報社で行う予定です。

花生典幸さん 受賞の言葉/教師たちに送るエール

 わが家の書架には、今回の選者・三浦雅士さんの著書が幾冊か並んでいます。そのうちの一冊「主体の変容-現代文学ノート」(1982年)には、氏のサインが記されています。

 大学は卒業したものの、教員採用試験には落ち、とりあえず1年間アルバイトをしながら暮らそうと思っていた直後の5月、弘前の紀伊國屋書店で開かれたサイン会で頂戴したものです。

 その日の夜は講演会も開かれ、壇上には先般ご逝去された長部日出雄さん(謹んでご冥福をお祈りいたします)の姿も一緒にありました。長部さんは三浦さんの仕事の価値を大いに称揚され、同郷の誇りだと力説し、それを隣で静かにはにかみながら受け止めている三浦さんの姿がありました。

 会場に流れる和やかな雰囲気にひたり、お二人のお話に耳を傾けながら、わたしは、長部さんも三浦さんもなんて懐の深い優しいお人柄なんだろうと感動したのを覚えています。今回、受賞の連絡をいただいた際、真っ先に脳裏によみがえってきたのは、30年前のその記憶でした。

 ですから、呻吟(しんぎん)しながらも、なんとか完成までたどり着いた原稿を三浦さんにじかに読んでもらえる機会を得たことは、自分にとってはまさしく僥倖(ぎょうこう)とよぶにふさわしい出来事なのです。

 さて、現在の自分の立場で、学校現場を舞台にして書いた小説ですので、いささかお断りが必要だろうと考えます。

 この小説には、一切モデルはありません。人物の造形も状況設定も、もちろん作中で起きる事件も、すべて頭の中で想像をめぐらし、作り上げた虚構です(一部地名をそのまま用いましたが、それはいわば借景のようなものです)。

 虚構の中で、一つ揺るがせない真実があるとしたら、それはこの作品を通して描きたいと思った、教師という職業人が日々直面している“切実さ”と矜持(きょうじ)ということになるのかもしれません。

 現在の学校現場には、業務の多忙化をはじめ、大小さまざまな問題が山積しています。その中にあって、心ある教師たちはいつも、時間や労力を惜しまず、精いっぱい心を砕いて、子どもや保護者に真摯(しんし)に向き合う毎日を送っています。子どもたちの笑顔のためという一点を支えにして。

 どんな現場にあっても、情熱と誇りをもって前を見つめて進もうとしている人間の姿は、美しく輝いているものです。そんな先生たちに、微力ながらもエールを。これが執筆動機の一つとしてありました。

 そしてもう一つのモチーフは、現任校である八戸市立江南小学校が昨年創立40年の節目を迎えたことです。「ふるさと」の意味、そして価値、そのことを初めて深く考えてみたことも、筆を執るきっかけになりました。

 最後になりましたが、拙作に光をあててくださり、さらには名誉ある賞まで授与してくださいました三浦雅士さんをはじめとする関係のみなさまに、心よりの感謝とお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。

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 <はなおい・のりゆき 1963年八戸市白銀町生まれ。八戸北高校-弘前大教育学部卒。八戸市教委指導主事、八戸市立吹上小教頭などを経て、現在は八戸市立江南小校長。趣味は映画鑑賞と旅行。好きな作家は伊集院静、篠田節子、村上春樹>