韓国海軍駆逐艦が海上自衛隊P1哨戒機に火器管制レーダーを照射したとされる問題の防衛省最終見解全文は次の通り。

 ▽はじめに

 防衛省はこれまで日韓の防衛当局間で緊密な意思疎通を図ってきた。火器管制レーダー照射を巡る問題に関しても累次に及ぶ協議を行ってきた。しかし、照射の有無をはじめとする主要な論点につき認識の隔たりを解消するに至らず誠に残念。防衛省は本件事案を重く受け止め、再発防止を強く求める観点から、日本側が有する客観的事実を公表することにした。同種事案の再発防止につながることを期待する。

 ▽レーダー照射

 わが国は広大な海域に囲まれ、防衛省は各種事態に適時、適切に対処し、国民の生命・身体・財産と領土・領海・領空を確実に守り抜くため、わが国周辺海域で活動する外国軍艦などに対し、平素から警戒監視および情報収集を実施している。

 昨年12月28日に動画でも公表した通り、同20日午後3時ごろ、平素の警戒監視と情報収集の一環で哨戒機が日本海の日本の排他的経済水域(EEZ)内を飛行中、韓国駆逐艦と韓国警備救難艦を確認。写真撮影などを実施中、突然、駆逐艦からレーダー照射を受け、哨戒機は直ちに安全確保のための行動を取った。

 レーダー照射は火器使用前に実施する行為で、他国の航空機に合理的な理由なく照射することは不測の事態を招きかねない極めて危険な行為だ。日本や韓国を含む21カ国の海軍などが2014年に採択したCUES(海上衝突回避規範)では攻撃の模擬とされ、指揮官が回避すべき動作の一つとして規定されている。

 重大事案発生を受け、防衛省は韓国側に強く抗議し、再発防止を求めたが、韓国側は事実を否定し、防衛省に「事実の歪曲(わいきょく)」の中止、「低空で脅威飛行したこと」への謝罪を求めるといった対応に終始している。

 防衛省の専門部隊がレーダー波の周波数、強度、受信波形などを解析し、駆逐艦のレーダー(STIR-180)からのレーダー波を一定時間継続して複数回照射されたことを確認した。近くにいた警備救難艦には同じレーダーが搭載されておらず、駆逐艦が照射した事実は防衛省が昨年12月28日に公表した動画の内容からも明らかだ。

 照射のさらなる根拠として、哨戒機の乗組員が機上で聞いた探知レーダー波を音に変換したデータを、保全措置を講じた上で防衛省ホームページで公表することにした。

 火器管制レーダーはミサイルや砲弾を命中させるため、目標にレーダー波を継続的に照射して位置や速度などを正確につかむために用いる。回転しながらレーダー波を出して目標を捜索・発見するための捜索レーダーとは波形などのデータに明確な違いがある。レーダー波を解析すれば種類や発信源の特定が可能で、照射されたレーダー波は火器管制レーダー特有の性質を示していた。

 このレーダー波が哨戒機が写真撮影などを実施した駆逐艦の火器管制レーダーから発せられたことは明らかだが、客観的、中立的に事実認定するには、相互主義に基づき日本が探知したレーダー波の情報と、駆逐艦が装備する火器管制レーダーの詳細な性能の情報を突き合わせて総合的な判断を行うことが不可欠だ。

 防衛省は1月14日の実務者協議で解析結果の基となる探知したレーダー波のデータやレーダー波を音に変換したデータなど事実確認に資する証拠と、駆逐艦のレーダーの性能やレーダーの使用記録などを、情報管理を徹底した上で突き合わせ、共同検証することを提案したが受け入れられなかった。昨年12月27日の実務者協議でも同趣旨の提案をした。1月14日の実務者協議では探知したレーダー波を音に変換したデータを持参し、その場で韓国側に聴取してもらうことを提案したが、韓国側に拒否された。

 韓国国防省報道官は、翌15日、「無礼」との外交的にも異例な用語を用いて、防衛省の提案を非難し、同14日の実務者協議の詳細について事前合意に反し、事実と異なる内容を一方的に明らかにした。信頼関係を損ない、率直な意見交換の支障となるもので極めて遺憾だ。同16日、防衛省はこのような言動が繰り返されないよう強く求めたが、韓国側から誠意のある回答は得られていない。

 一連の韓国側の対応、韓国側の主張が一貫せず信頼性に欠けることを踏まえると、韓国側が事実と全く異なる主張を繰り返していると結論付けざるを得ない。

 客観的、中立的な事実認定が困難で、これ以上実務者協議を継続しても真実究明に資するとは考えられない。哨戒機へのレーダー照射を改めて強く抗議し、韓国側に事実を認め、再発防止を徹底することを強く求める。

 ▽哨戒機の飛行

 韓国側は哨戒機が「人道主義的救助作戦」に従事中の駆逐艦に対し、近接した距離で「低空で脅威飛行した」と主張し、謝罪を求めている。

 軍用機の最低安全高度を直接定める国際法はないが、哨戒機は安全を確保するため、国際民間航空条約にのっとったわが国航空法に従って飛行しており、駆逐艦に脅威を与えるような飛行は一切行っていない。米軍や北大西洋条約機構(NATO)の通常のオペレーションも同様の基準で行われていると承知している。

 昨年12月28日に防衛省が公開した動画の内容、哨戒機の航跡図からも明らかなように、哨戒機は駆逐艦に最も接近した際でも十分な高度(約150メートル)と距離(約500メートル)を確保し、駆逐艦の活動を妨害するような飛行も行っていない。駆逐艦から無線による呼び掛けもなく、哨戒機は救助作戦を行っていることを認知できなかった。

 韓国側が公表した警備救難艦の小型艇から哨戒機を撮影したとみられる約10秒間の映像には、韓国側の主張を支える根拠は見当たらず、それ以外にも、同機が「低空で脅威飛行した」との主張を裏付ける客観的根拠は何ら示されていない。

 これまで海上自衛隊では、警戒監視および情報収集中、外国軍艦などを確認した場合は今回と同じような飛行を行い、写真を撮影している。昨年4月以降、今回撮影した駆逐艦(クァンゲト・デワン)を今回と同じように4月27日、同28日、8月23日の3回撮影したが、韓国側から問題提起を受けたことはない。

 防衛省は実務者協議でさらなる客観的根拠の提示を求めたが、韓国側は示さず、逆に「脅威を受けた者が脅威と感じれば脅威である」などと全く客観性に欠ける回答を繰り返している。

 韓国側の主張は客観的根拠に基づかない説得力を欠いたもので、照射に関する重要な論点を希薄化させるためのものと言わざるを得ない。

 ▽通信状況

 一般に、艦船の乗員が危険を感じた場合には無線で呼び掛けるが、駆逐艦は、哨戒機の飛行を問題視する一方で、同機に危険を伝える呼び掛けなどを全く行っていない。

 また、哨戒機はレーダーの照射を受けた後、国際VHF(156.8メガヘルツ)と緊急周波数(121.5メガヘルツおよび243メガヘルツ)の三つの周波数で呼び掛けたが、同艦からは一切応答がなかった。

 韓国側は現場の通信環境が悪く、呼び掛けをほとんど聞き取れず、「KOREA COAST」と聞こえたために反応しなかったと説明し、周波数の一つは聞ける状態に通信装備をセットしていなかったとも説明した。

 しかし、当日の現場海域は晴天で雲も少なく、通信環境は極めて良好だった。哨戒機は駆逐艦に呼び掛けた同じ通信機器(この機器は飛行前、飛行中、飛行後に正常に作動していたことを確認済み)を用いて埼玉県の陸上局と通信し、約240キロ離れた位置を飛行していた航空自衛隊の練習機が、この駆逐艦に対する呼び掛けを聞き取っていたことも確認している。

 良好な通信環境下で明瞭に受信できなかったとは通常では考えられず、実際に韓国側が公表した動画では駆逐艦内で哨戒機の乗組員の呼び掛け内容(「KOREAN SOUTH NAVAL SHIP,HULL NUMBER 971,THIS IS JAPAN NAVY.」)を明確に聞き取ることができる。1月14日の実務者協議で韓国側は哨戒機からの呼び掛けを繰り返し確認した結果、後になって通信当直の聞き間違いであることを確認したと初めて説明した。これまで韓国側は記者会見などで「KOREA COAST」と聞こえたため反応しなかったとのみ説明し、このような事実を明らかにしていなかった。

 今後このような問題が再び起こることのないよう、韓国側に自衛隊機などに対する適切な通信の実施、通信の待ち受け状態の改善、通信要員らへの教育・訓練など、日韓の防衛当局間の現場における意思疎通の改善を図るための措置を求める。

 ▽今後の対応

 以上の理由から、駆逐艦による哨戒機へのレーダー照射について改めて強く抗議し、韓国側に事実を認め、再発防止を徹底するよう強く求める。

 一方、韓国側に相互主義に基づく客観的、中立的な事実認定に応じる姿勢が見られず、照射の有無について実務者協議を継続しても、真実の究明に至らないと考えられ、本件事案に関する協議を韓国側と続けることはもはや困難と判断する。

 その上で日韓・日米韓の防衛協力は、北朝鮮の核・ミサイル問題をはじめ、東アジア地域における安定的な安全保障環境を維持するために極めて重要であり、不可欠との認識に変わりはない。本公表が同種事案の再発防止につながることを期待し、日韓・日米韓の防衛協力の継続へ向けて真摯(しんし)に努力していく考えだ。