修学旅行で五ろりを訪れ、竹細工に挑戦する地元の小学生。斉藤明さん(右)が、妻の三千代さん(左から2人目)と二人三脚で運営する=2021年11月、新潟県五泉市
いろりを囲み、昼食に訪れた女性たちと雑談に花を咲かせる場面も=2021年11月、新潟県五泉市
「子どもたちが大きくなって地元を離れても、五泉での思い出を覚えていてくれたらうれしい」と語る斉藤明さん=2021年11月、新潟県五泉市

 越後平野の東端に位置し、霊峰白山や菅名岳などの雄大な山々を望む新潟県五泉(ごせん)市。市街地から南に約8キロ、のどかな風景が広がる別所集落の一角に、一軒の古民家がひっそりとたたずむ。東京都からUターンした斉藤明さん(48)=同市出身=が開業したゲストハウス「五(ご)ろり」だ。オープンから今年で8年。長引く感染禍が客足に影響を及ぼす一方で、「原点を見つめ直す契機にもなった」と前を見据える。いわゆる「観光地」ではない、自然に囲まれた里山に根差したゲストハウスの新たな可能性を探った。

 「五ろり」のコンセプトは「ちょっぴり昔のいい暮らし」。建物は築約70年の木造2階建ての借家で、畳敷きの和室やいろりなど、昭和の風情が残る昔ながらの古民家だ。

 「ただいまと言いたくなる温かい雰囲気がある。実家のようで居心地がいい」。2021年末、友人と昼食に訪れた五泉市のパート武藤有希子さん(36)は魅力をこう語った。

 運営する斉藤さんは高校卒業後に上京し、専門学校を経て舞台などの大道具を作る都内の会社に就職した。元々旅行が趣味で、全国各地のゲストハウスを巡るうちに、一般的なホテルでは味わえない、他の宿泊客との語らいを楽しむ面白さに魅了された。やがて「自分も開業したい」との思いが募り、Uターンから5年ほどたった14年6月、41歳でオープンした。

 土鍋炊きのご飯や自家栽培の野菜を使った料理も好評で、豊かな自然や素朴な田舎暮らしを満喫できるとあって、県外や海外からも多くのファンが訪れた。

 しかし、新型ウイルス感染拡大の影響がターゲットとなる客層を直撃。緊急事態宣言の拡大などを受け、一時期は休業を余儀なくされたが、逆境の中で新たな取り組みを始めた。

 20年度からは、地元の五泉小学校の修学旅行を受け入れている。地域の魅力を探ろうと、21年度は複数の訪問先候補から選んだ児童5人が日帰りで五ろりへ。裏山に生える竹を活用した竹細工やニワトリとの触れ合いを楽しんだ。和田優花さん(12)は帰り際、「五泉にこんな場所があったなんて知らなかった。今度は泊まってみたい」と満足げな表情を浮かべた。

 昨夏には、絶滅危惧種イバラトミヨ(通称トゲソ)の保護活動に取り組む地元のNPO「五泉トゲソの会」と連携し、小学生を対象とした宿泊イベント「夏休み冒険塾」を開催。市内から計18人が参加し、川遊びやカレー作りなどを楽しむ1泊2日の「冒険」を通して互いの交流を深めた。

 冒険塾の発案者で、同NPO理事長の中村吉則さん(73)は「親元を離れ、初めて出会った人たちといろいろなことに挑戦した経験はきっと財産になる」と思いを語る。

 感染禍が長引き、客足がなかなか戻らない状況が続く。それでも斉藤さんは前向きだ。「当たり前になっていた日常を見つめ直し、地元の良さを再発見するチャンスなんだと思います」

宿以外の側面充実を ゲストハウス「五ろり」オーナー・斉藤明さん

 五泉で生まれ育った斉藤さんに、地元で開業した理由や新たな取り組みで感じた思い、今後の展望などを聞いた。

 -五泉で開業した理由は。

 「自然が豊かで水もきれい。五泉は有名観光地のような派手さはないかもしれないが、ゆっくりと時間が流れるような素朴な良さがある。生まれ育った土地の魅力をたくさんの人に知ってほしいという思いがあった。『五ろり』はごろりと横になってくつろいでほしいという願いを込め、五泉の『五』の字を取って名付けた」

 -感染禍の影響は。

 「主なターゲット層は、田舎暮らしに興味のある県外、海外からの宿泊客だった。往来自粛などの制約が生まれ、客足に響いた。でも、最初から観光地ではない場所を選んで開業しているので、多少の不便さを抱えた環境の中でも今あるものに目を向けるという姿勢は備わっていた。この軸は感染禍であっても変わらないし、慌てて変える必要もないと思っている」

 -新たな取り組みを振り返って思うことは。

 「どちらの取り組みも自分が発案したわけではなく、声を掛けてくれた方をはじめ、多くの人々の協力があって実現できたこと。子どもたちの体験の場として五ろりを選んでもらえたことが、とてもありがたかった。来てくれた子どもたちが『五泉っていいところだな』と感じてくれたり、大きくなった時に『そういえば、あんなことがあったな』と思い出してくれたりしたらうれしい」

 -今後の展望は。

 「ゲストハウスとしての機能は引き続き大切にしつつ、宿泊以外の側面も充実させていく。数年前から食事だけの利用もできるようになったので、気軽にランチなどだけでも来てもらえるよう工夫したい。他にも、イモ掘りなどの畑仕事も『やってみたい』という人がいれば一緒に体験できるようにしたい。昨年始まった冒険塾も、感染禍が収束したら終わりではもったいない。今後も開催していけたらと考えている」

(新潟日報社)