「人生の目標を認識していれば、到来したチャンスを逃すことはない」と言う工藤さん=東京・紀尾井町のトゥールダルジャン東京

 1582年の創業で、「フランス料理の歴史そのもの」「ソムリエの聖地」と称されるパリの最高級レストラン「トゥールダルジャン」。東京のホテルニューオータニにある世界唯一の支店でソムリエを務める3人のうちの1人が、平川市出身の工藤順平さん(36)だ。

 ワインと料理のマリアージュ(最良の組み合わせ)の案内だけでなく、「ワインを含むあらゆる飲み物を熟知し管理するのがソムリエの業務」という。客がオーダーした料理に合う飲み物を客の嗜好(しこう)を踏まえて勧めるには、在庫の状況を完璧に把握する必要がある。

 同店は1200種類、3万5千本ものワインをストックするが、どれも飲み頃がある。仮にワインが品切れになり発注したとしても翌日に届いたものをすぐ出せるわけではない。「ワインリストは10年先を見越し拡充する。伝統を重んじるレストランはワインを育て次世代へつなぐ義務があり、ソムリエの責任は重い」

 工藤さんは高校卒業後、弘前市のホテルニューキャッスルに就職。4年目でレストラン配属となりワインの世界に触れた。「サービス業の楽しさを知り、ワインの知識を武器にしようとソムリエを志した」。独学を重ね24歳でソムリエに。「でも資格を得て定石のマリアージュを勧めるだけがソムリエなのか、と。ソムリエの本質を自問自答した」

 料理を学ぶ必要があると考えてホテルの厨房(ちゅうぼう)を志願し、2年で調理師免許を取得。一方でソムリエのコンテストに挑戦したが「全然だめだった」。修業と勉強を重ね翌年に再挑戦、全国の上位3人に食い込んだ。「多くの人々の支えで結果が出せた。ソムリエとして地元に恩返しを、と考えていた」。そんな時に憧れのトゥールダルジャンから「働いてみないか」と誘われた。悩んだが、「厳しい環境に自分を置こうと」移籍を決めた。27歳だった。

 日本屈指の高級レストランでの仕事は予想通り容易でなかった。最初はウエーターだったが、客の飲み物は水でも出すことができない。「伝統を重んじ、業務は完全に分担されている。資格や実績があってもこの店のソムリエでなければ飲み物には触れられない」。苦労を重ねソムリエを任されたのは30歳のころ。「自分の人生に欠かせないキャリアのスタート地点に立てたことに喜びを感じた」

 ソムリエの資格を得て今年で13年目。「ワインは伝統的食文化の一つであり、人と人のつながりで成立する」と実感する。客に「あなたに会いに来た」と言われることや、今も弘前時代の顧客と親交が続くことがうれしい。「自分のキャリアを生かし故郷に恩返ししたい。青森県のワイン文化は近年、非常に深化し花開きつつある。独自の食文化との結びつきを探求し、発信できれば」

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 <くどう・じゅんぺい 1985年尾上町(現平川市)生まれ。弘前工業高校卒業後、ホテルニューキャッスル勤務。2009年、県内8人目のソムリエに。12年からホテルニューオータニトゥールダルジャン東京勤務。第2回JSAソムリエ・スカラシップ受賞、第7回全日本最優秀ソムリエコンクールセミファイナリスト>