新型コロナウイルスの感染拡大防止のため紙上大会として開かれた、東奥日報社と東奥日報文化財団主催の第75回県俳句大会。俳誌「玉藻」主宰の星野高士氏の特別選(「秋季雑詠」)や宿題(「鶏頭」「そぞろ寒」「青林檎」)の入選作品を発表します。


●特別選・・・「秋季雑詠」星野高士選
◇天位
 労ひのひと言かけて案山子抜く 八戸 西川無行
【評】俳句は何と言っても挨拶(あいさつ)のこころが大事。相手が季題であっても景色や人事でも、そこに作者の存問の姿勢がある。案山子(かかし)は秋を通しての季題であるが、何如に風圧に耐えてきたはず。ただ案山子を抜くのではなくひと言かけたというやさしさが十分にあふれた作品。上五で分かるように労(ねぎら)いの言葉である。省略も利いていて作者像が浮かぶ。

◇地位
 松茸へ五体投地し匂ひ嗅ぐ 三沢 阿久津凍河
【評】昔からというか近代になって松茸(まつたけ)は大変に高値でもあり貴重なものになった。その松茸を表現するにはたくさんの言葉が必要そうであるが、この一句は簡潔に述べられていた。それだけではなく俳諧味を保ちながら、季題への賛美する心持ちも持ち合わせたものになっていた。中七の表現で松茸も神や仏に見えたのであろう。心地よさが残った。

◇人位 海光の沖に蝦夷地や秋気澄む むつ 永倉みつ
【評】写生句のよいところばかりが目立つ作品となり読み手もその場面に連れて行ってくれた作品。また俳句ならではの中七の軽い切れが全体に間を生んでくれたので、心地よさが残った。まさに龍飛崎の景であるが、蝦夷(えぞ)地への思いの方を主にしたところに距離感が感じられた。臨場感があふれるのは言葉の大切さだ。季題も的確であった。

◇秀逸
 秋風に耳そばだてて岬馬 青森 中島五郎
 迷いつつ野面に低く秋の蝶 深浦 蒲田幸子
 虚子手古奈句碑並ぶ丘小鳥くる 青森 七戸富美子
 遠き日の軍馬街道ちちろ鳴く 十和田 相馬敏光
 稲の香や津軽に住める鬼コたち 弘前 畠山容子

◇佳作
 秋めくや廃墟となりしわが地球 弘前 長利冬道
 挨拶のなきお向かいや秋の風 弘前 竹内健悟
 チャンバラの棒持て帰る大夕焼 鶴田 竹浪誠也
 おもてなし無人の駅の案山子かな 大鰐 小田切礼子
 不浄なる空気清めよ秋の風 青森 澁田紀子
 秋冷や眠れぬままに午前四時 青森 田中翠声
 小説の女の味方して夜寒 青森 敦賀恵子
 文選も植字も死語か鳥渡る 青森 蝦名石蔵
 波高き龍飛の海の帰燕かな 青森 布施協一
 青池の月光透かし睡る森 青森 盛弘子
 燗酒や津軽訛の傍に寄る 黒石 鳴海顔回
 父の忌や土鍋にて新米を炊き 八戸 吉田千嘉子
 うそ寒や四角にねまる牧の牛 深浦 草野力丸
 しぶきつつ阿修羅の流れ爽やかに 青森 木立邦子
 子に電話してより仕込む栗をこは 青森 築館秋水
 コロナ禍に眼険しき佞武多来る 八戸 今順子
 陸奥湾の霧には霧の笛言葉 青森 成田政美
 津軽富士真つ赤なりんご日和かな 青森 長島喜美
 さつくりと檸檬を切れば詩の芳香 弘前 聖雪
 秋晴れや螺旋階段駆け登る 八戸 磯沼チヨ

●宿題・・・「鶏頭」
◎金田一一子選
◇天位
 眼裏にいつも子規の句鶏頭花 深浦 草野力丸
◇地位
 鶏頭のよじれて吾に向きて咲く むつ 畑中とほる
◇人位
夜の鶏頭ときをり疼く見えぬ疵 弘前 聖雪
◇秀逸
 鶏頭や声和らげて子を諭す 八戸 西川無行
 鶏頭花校舎の壁を染め上げて 青森 阿部なつ
 鶏頭のひと叢にある孤独かな おいらせ 野村英利
 天上へ不屈の拳鶏頭花 青森 島田よう子
 触れたなら火傷しさうに鶏頭花 青森 小出登志子

◎対馬迪女選
◇天位
 機の音途絶へし村や鶏頭花 七戸 川村亜輝子
◇地位
 戦ぐこと知らず鶏頭整列す 平川 後藤朋子
◇人位
 鶏頭や暮れてなほ朱のたしかなり 青森 本間千歩
◇秀逸
 鶏頭濃し村を離れる少年に 青森 松橋喜世美
 鶏頭の赫やわたしに重すぎる 十和田 杉本喜和子
 鶏頭の紅際立ちて事もなし 深浦 七戸たか女
 鶏頭赤し剪らば鮮血噴き散らん 青森 橘川まもる
 白壁の続く蔵町鶏頭花 十和田 小林五月

◎吉田千嘉子 選

◇天位
 革命の前夜の如く立つ鶏頭 青森 下山みのる
◇地位
 鶏頭に触りて指紋奪わるる 青森 雪田樹理
◇人位
 鶏頭花たむけむ軍馬の墓石にも 大間 金田一一子
◇秀逸
 喪明かりに庭の鶏頭浮かび立つ 弘前 笹原郁子
 断りの文の重さや鶏頭花 弘前 竹浪克夫
 鶏頭や志士も遊女も眠る寺 十和田 大川恵子
 鶏頭に近寄りすぎし微熱かな 弘前 対馬迪女
 傍らに農衣乾されて鶏頭花 藤崎 五十嵐かつ

◎小野寿子 選
◇天位
 傍らに農衣乾されて鶏頭花 藤崎 五十嵐かつ
◇地位
 鶏頭炎ゆ海荒るる日も凪の日も 深浦 山本こう女
◇人位
 鶏頭や身のうちにまだ青きもの 階上 岩村多加雄

◇秀逸
 鶏頭の赤ふてぶてし痩せ畑 弘前 つつゐ怜
 鶏頭のひと叢にある孤独かな おいらせ 野村英利
 鶏頭の燃ゆるばかりに過疎の村 八戸 境陽子
 思ひ出は父の鉄拳鶏頭花 弘前 清水雪江
 鶏小屋に残る卵や鶏頭花 八戸 田端千鼓

●宿題・・・「そぞろ寒」
◎大瀬響史選
◇天位
 子規庵のたたみ一畳そぞろ寒 十和田 日野口晃
◇地位
 ガラス戸に写る背丸しそぞろ寒 むつ 杉山畝女
◇人位
 そぞろ寒仏陀の足うら痒しまま 青森 杏ジャム
◇秀逸
 そぞろ寒顎を埋めて牛の臥す 大間 金田一一子
 そぞろ寒ぐう・ちよき・ぱあと手を開く 三沢 阿久津凍河
 そぞろ寒地球のどこか飢ゑてをり 青森 工藤邦子
 そぞろ寒肩甲骨を寄せもして 弘前 浜しのぶ
 長き磴の古りし手すりやそぞろ寒 青森 中谷恭子

◎ 畑中とほる 選
◇天位
 そぞろ寒顎を埋めて牛の臥す 大間 金田一一子
◇地位
 度忘の脳細胞やそぞろ寒 深浦 草野力丸
◇人位
 そぞろ寒積まれしままの廃棄物 十和田 大川恵子
◇秀逸
 そぞろ寒悔み欄より目を通す むつ 永倉みつ
 母ひとり残す故郷やそぞろ寒 青森 布施協一
 農民一揆の処刑地跡やそぞろ寒 弘前 阿保子星
 度忘れの日にいくたびもそぞろ寒 弘前 畠山容子
 老いがゐる朝の鏡やそぞろ寒 むつ 萬年和子

◎草野力丸選
◇天位
 プライバシー覗くスマホやそぞろ寒 深浦 かめい百
◇地位
 そぞろ寒顎を埋めて牛の臥す 大間 金田一一子
◇人位
 ドクターの次のひと言そぞろ寒 八戸 工藤祐子
◇秀逸
 「キヤツシユカード」手順間違ふそぞろ寒 青森 塙ひさ
 首の無き仏に会えりそぞろ寒 むつ 畑中とほる
 検診の結果待ちなりそぞろ寒 五所川原 松宮梗子
 引き取りの無き骨壺やそぞろ寒 八戸 佐々木雅翔
 そぞろ寒遺品の絵より怒涛音 五所川原 櫛引麗子

◎木村秋湖選
◇天位
 母をまた叱る後悔そぞろ寒 青森 成田政美
◇地位
 待ち合せコップカラコロそぞろ寒 黒石 浅原弘子
◇人位
 寛解の夢より醒むるそぞろ寒 板柳 くどうひろこ
◇秀逸
 古民家の広き厨やそぞろ寒 弘前 長利冬道
 子規庵のたたみ一畳そぞろ寒 十和田 日野口晃
 早世の母の忌日やそぞろ寒 青森 成田晃子
 母ひとり残す故郷やそぞろ寒 青森 布施協一
 そぞろ寒時に忘るる飲み薬 弘前 千葉新一

●宿題・・・「青林檎」
◎くどうひろこ選
◇推薦
 臍の緒を切られ座を得る青林檎 青森 川村英幸
 み仏は初物好きや青林檎 青森 阿部なつ
 望郷の火種は消えず青林檎 青森 小野寿子
 がぶりつと歯型が笑ふ青林檎 青森 齋藤裕一
 青林檎土産に急行八甲田 八戸 佐藤文彦

◎鈴木志美恵選
◇推薦
 青林檎さらりと語る失敗談 平内 須藤千和子
 み仏は初物好きや青林檎 青森 阿部なつ
 うす紅を一筋入れて青りんご 青森 平惠
 わが胸に棲む少年よ青林檎 十和田 比内順子
 置くだけでアートめきたる青林檎 深浦 草野力丸

◎関礼子選
◇推薦
 少年の黙の反抗青林檎 青森 澁田紀子
 青りんご育てて農の血を濃くす 青森 七戸富美子
 青春の酢つぱさ甘さ青林檎 平川 後藤朋子
 青りんご棺に納め農夫の葬 青森 齊藤君子
 青りんご噛めば青春迸る 弘前 聖雪

◎敦賀恵子選
◇推薦
 佛壇の戦地のはがき青林檎 東北 井上健蔵
 青林檎かじるや戦後生まれなる 青森 蝦名石蔵
 臍の緒を切られ座を得る青林檎 青森 川村英幸
 遠き日の見えない傷や青林檎 弘前 つつゐ怜
 青林檎ギターの弦は切れしまま 青森 秋谷美智子

◎中村しおん選
◇推薦
佛壇の戦地のはがき青林檎 東北 井上健蔵
僕のギターだまつて聴いてる青林檎 板柳 秋野かをり
後継ぎはりんご科卒や青林檎 弘前 斎藤ひでを
青林檎嶽の夕日にせかさるる 青森 原子立子
第二章流れを変えた青林檎 三沢 守田啓

◎松宮梗子選
◇推薦
山の風しかと受け止め青林檎 深浦 蒲田吟竜
青りんご窓辺に一つ外は雨 青森 村上楓
青りんご育てて農の血を濃くす 青森 七戸富美子
置くだけでアートめきたる青林檎 深浦 草野力丸
アトリエは在りし日のまゝ青林檎 青森 今村光子

◎南美智子選
◇推薦
少年の黙の反抗青林檎 青森 澁田紀子
僕のギターだまつて聴いてる青林檎 板柳 秋野かをり
木登りの少年の空青林檎 十和田 大川恵子
うす紅を一筋入れて青りんご 青森 平惠
駅ふたつ過ぎれば故郷青林檎 おいらせ 野村英利

◎郡川宏一選
◇推薦
五歳児は寺の後継ぎ青りんご 弘前 髙野万津江
若き日の睨む自画像青りんご 藤崎 五十嵐かつ
噛めば野の風渡り来る青林檎 弘前 畠山容子
歯ならびのきれいな少女青りんご 八戸 佐藤幸子
青林檎明日は胃カメラ飲む日なり 八戸 田端千鼓

◎後藤岑生選
◇推薦
 偕老の朝餉に添ふる青林檎 青森 千葉すみれ
 青りんご育てて農の血を濃くす 青森 七戸富美子
 青林檎あめつちあをき太宰の地 五戸 鈴木志美恵
 わが胸に棲む少年よ青林檎 十和田 比内順子
 夢叶う日を大空に青林檎 深浦 蒲田幸子

◎坂本幽弦選
◇推薦
 青りんご多感なるもの掌のなかに 青森 杏ジャム
 青リンゴ尖りしものは折れ易く 青森 加藤健一郎
 青林檎身籠りて嫁透きとほる 五所川原 櫛引麗子
 たわわなる青林檎その鬼火めく 五所川原 藤田明子
 素気なき言葉足らずや青りんご 十和田 稲場暁子

◎桜庭門九選
◇推薦
 遠き日の見えない傷や青林檎 弘前 つつゐ怜
 青りんごどれも清しき名を持てり 弘前 対馬迪女
 若き日の睨む自画像青りんご 藤崎 五十嵐かつ
 青りんご坊主あたまの吾子ふたり 弘前 今田とみを
 アトリエは在りし日のまゝ青林檎 青森 今村光子

◎野村英利選
◇推薦
 うたた寝の夜汽車にかじる青林檎 弘前 長利冬道
 農高の原木園の青林檎 黒石 小田桐由紀子
 若き日の睨む自画像青りんご 藤崎 五十嵐かつ
 恥多く生きて今あり青林檎 八戸 郡川宏一
 青林檎土産に急行八甲田 八戸 佐藤文彦

 ◎三ケ森青雲選
 岩木嶺の裾野広げて青林檎 むつ 畑中とほる
 頬杖や机の上の青りんご 青森 髙橋まちこ
 青林檎天守の見える街が好き 十和田 中村しおん
 青林檎明日は胃カメラ飲む日なり 八戸 田端千鼓
  青林檎かじり車窓の人となる 青森 赤坂雪洲

◎吉田紅一選
◇推薦
 青林檎かりりと噛みて清清し 青森 阿部みづき
 青りんご酸し故郷の母やさし 青森 布施協一
 青林檎身籠りて嫁透きとほる 五所川原 櫛引麗子
 歯ならびのきれいな少女青りんご 八戸 佐藤幸子
 青林檎母郷の空を見て飽かず 板柳 くどうひろこ