N響の練習場でチェロを構える三戸さん=東京都港区
三戸さんが出演してきた定期公演の一場面=2019年9月(提供・NHK交響楽団)

 小学5年で初めてチェロを弾いてから、半世紀。日本を代表するオーケストラ・NHK交響楽団(N響)のチェロ奏者で、青森県弘前市出身の三戸正秀さん(相模原市在住)は「63歳になったけど練習するのも楽しい。上達するのがうれしくて」と充実の日々を送る。

 幼い頃、教員の父が歌ってくれた「山の音楽家」が好きで、リスが弾くバイオリンに興味を持った。弘前・土手町の楽器店の前で寝転がり、両親に「買って」とせがむほど。小学生になると念願がかない、バイオリンを習い始めた。

 転機は弘前大付小5年の時。合奏クラブで先生に、学校に1台だけあったチェロを勧められた。「バイオリンより人数が少なく、長く続けるならプロになれるかもしれない」と。恩師の慧眼(けいがん)が、今に生きている。

 N響の楽員となって40年近く。東京・高輪の練習場には午前7時ごろには着き、いつも一番乗りで朝練習に精を出す。冬は真っ暗なうちに家を出る。「もっと上手になってまだまだ良い音で弾きたい。昔はできなかった奏法に挑戦するのは楽しい」。還暦を過ぎた今も貪欲に、音色を追求する。

 10人強のチェロ奏者がN響には在籍するが、「音をどんな色彩で表現するかは一人一人の個性が出る」と三戸さん。自身は「弘前は雪が降って桜が咲いて、岩木山とねぷたがあって。音楽の感受性を豊かにしてくれる環境で育ったことは本当に幸せだ」とほほ笑む。

 N響は2020年、新型コロナウイルスの感染拡大で定期公演を休止。編成を小さくしたり演奏者の間隔を空けたりと、感染防止に気を使いながら従来とは別の形で公演を続けてきた。22日にはむつ市の下北文化会館で演奏会を開催する。

 一方で、地方のアマチュアオーケストラが活動の制限を余儀なくされていることに心を痛める。自らも弘前交響楽団の名誉団員で、「地元の仲間と一緒にいるのが至福のひととき」。約20年、子どもや初級者を含めた愛好家を指導する「ドリームゼミナール」を弘前市で開いてきたが、それもまだ再開できそうにない。

 「街にまだ音楽が戻っていない地域もある。僕が古里に恩返しできることはないかと、考えてはいるのですが」と思いを巡らす。

 公演や練習で使うチェロは既に30年以上、愛用している。別の楽器に買い換えないのは、この“相棒”の音色が好きだからと言う。「年を取ると求める音も変わる。楽器がそれに応えてくれて、音色も変わる。楽器に触れるうちは、ずっと練習し続けると思う」。向上心は尽きない。

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 <さんのへ・まさひで 1958年、弘前市生まれ。NHK交響楽団(東京都)のチェロ奏者。弘前大付中を卒業するまで阿保健氏(元弘前大教授)にチェロを学んだ。国立音大付音楽高を経て国立音大に進み、小野崎純氏に師事。N響には83年にオーディション合格し入団。現在は国立音大非常勤講師も務める>