「小学生ぐらいから芝居に興味があった」と話す益城さん=東京・吉祥寺の前進座
益城さん演じる瀬尾(前進座提供、中村彰氏撮影)

 創立90周年を迎えた劇団「前進座」。5月13~18日に東京・国立劇場で開かれた記念公演で、歌舞伎「俊寛」の悪役・瀬尾太郎兼康を強烈に演じたのがむつ市出身の益城孝次郎さん(68)だ。初舞台から47年のベテランは、同座の中核として強い存在感を放つ。

 益城さんが今回目指したのは、かつて瀬尾を演じた先輩・先代瀬川菊之丞の憎々しい演技。60年近く前の舞台の音源を探しあて、衝撃を受けた。「歌舞伎でありながらリアル。これをなぞろうと聴きまくった」

 歌舞伎と出合ったのは高校生の頃、前進座の青森公演だった。役者は菊之丞。「立てないほど感動し滂沱(ぼうだ)に泣いた」。これで舞台にはまり、住んでいたむつ市から青森市まで月2回通うようになる。同時に地方で良質な舞台を見る機会は増えないのかと考え、「地方巡業に前向きな前進座に入ろうと決めた」。高卒後に上京、前進座付属俳優養成所の門をたたいた。

 歌舞伎や現代劇、児童劇と前進座の俳優は何でも演じる。養成所で1年学び入座すると「抜てきされすぐ初舞台。歌舞伎だった」。衣装の着付けなど分からないままの初演。「わらじの履き方も知らないので時間がかかり、片方だけで舞台に出た」。苦い思い出だ。

 そこから努力と経験を積んだ。演じた作品は「主要な役で30~40作、端役も含めれば300作以上」。中でも主演した山本周五郎原作の「さぶ」は公演900回超のロングランに。「栄二役なら江戸弁が必要と講釈師・小金井蘆州の元で学んだ」。江戸が匂うような演技は高い評価を得た。

 栄二を十数年演じ、50歳すぎで迎えた2007年2月の最終公演。益城さんは1幕目にアクシデントで転倒する。「痛かったが最後まで演技した。終わってから診てもらうとあばら骨が7本折れてた」。それなのに、すぐ次の舞台「生くべくんば死すべくんば」の主演、弁護士布施辰治役を引き受けた。「二つ返事でやります、と。ほいど(方言で欲張り)なんだよな」

 地方巡業には今も出演。県内劇団の相談に気軽に応じるなど地方演劇を支え続ける。「最近は若者が演劇に触れる機会が減ったね。学校での演劇鑑賞は減り、先生世代も多くが演劇に触れていない」。良質な舞台に触れる機会の地方格差はより深刻になったと感じる。

 だからこそ地方の演劇人に伝えたい。「アマチュア劇団は視野を広げ、いろんな芝居に挑戦しなきゃ」。その精神が地方発の良質な演劇の創出と隆盛につながると考える。「手伝いも助言もする。地方の演劇を応援したい」

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 <ますき・こうじろう 1953年むつ市出身。田名部高校卒。前進座所属。同座付属俳優養成所を経て74年入座。同年「水沢の一夜」で初舞台。現代劇から歌舞伎まで幅広く演じる。「さぶ」栄二役など主演も多い。2019年の「俊寛」瀬尾役決定を機に益城宏(ひろし)から改名。故郷にちなみ屋号を「斗南屋」とした>