新作「雨水」の前に立つ角舘さん=東京・代々木上原
縦140センチ、横127センチの大きなタペストリー「渦」

 アカネ、コブナグサにタマネギまで。こぎん刺し・草木染作家の角舘徳子さん(33)=東京都在住=は、自分で採取した植物で染めた布、糸を用いて作品をこしらえる。「季節の訪れを感じられるので楽しく、台所で染めるので口に入っても安全」と語る。

 東京都、千葉県の計3カ所で、こぎん刺し教室の講師を務める。受講生は40~70代の女性が中心。近年は会員制交流サイト(SNS)で目に触れて「一度だけでもやってみたい」と、教室を訪れる体験希望者が増えているという。

 岩手県出身。弘前大学に在学中、所属するゼミ室に積み上がった雑誌の一つを何げなく開くと、ある特集に目を奪われた。「すごくきれいだけど、海外の織りだろうか」と読み進め、それがこぎん刺しだと知った。

 「あした、連れて行ってやるぞ」。特集に見入る様子に気づいた担当教官に連れられ、自転車で弘前こぎん研究所へ向かった。制作体験で10センチ四方の作品を刺し、美しさに魅せられた。

 研究所スタッフから助言を受けながら、卒業制作でタペストリーに挑戦。「きれいな模様を一日中刺せたらすごいな」と熱量はさらに高まり、研究所を卒業後の就職先に選んだ。

 自由に刺したい-との衝動に駆られることもあったが、伝統柄の重要性や「用の美」の尊さを研究所で学んだ。文化を守るため「自覚を持って作りなさい」。先輩の教えが今も心に残る。退社後の2013年、田舎館村に工房を開設。活躍の場を県外にも広げた。

 18年、拠点を東京に移した。今年2月には受け持つ3教室の合同作品展を代々木上原駅(渋谷区)近くで開催。新型コロナウイルス感染拡大の影響で予定した期間の短縮を余儀なくされたが、教え子17人の作品と共に自らの新作も飾った。

 「視覚に訴えかける作品をこぎんというツールを使って作りたい」と考え、現在は大型作品の制作に意を注ぐ。会場には縦横それぞれ1メートルを超える大きなタペストリーが点在し、来場者の目を引いていた。

 津軽で「美しい模様を作り出す楽しさ」に出会い、魅了されて10年以上の年月が流れた。「こぎんは作者不詳だったり、半世紀以上も前の物であっても、そうとは思えないほど美しい模様の作品が多い。私の作品が100年後も残っていたらうれしい。作者の名前は分からなくても、すごい作品だから残っていると。夢というか妄想ですね」。柔らかな笑顔でそう答えた。

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 <かくだて・のりこ 1987年生まれ、岩手県出身。弘前大学在学中にこぎん刺しを学ぶ。2010年、弘前こぎん研究所入社。13年に独立。現在は拠点を東京都に移し、首都圏3カ所でこぎん刺し教室の講師を担う>