「生活のシーンに密着することで、その人の意識に食が残る」と話す成田さん=東京・麻布十番の店舗前
多彩なパンや菓子が並ぶ店内

 数々の国際賞を獲得した名シェフパティシエとして知られる成田一世さん(54)=むつ市出身=が、東京・麻布十番に昨年12月開いた「Scene KAZUTOSHI NARITA」。数々のパンや洋菓子がそろい、来客が途切れない注目店だ。

 「菓子はフランス、イタリア、台湾など自分が住んだ国のもの」。絶品のクロワッサンなど数々のパンも並ぶ。「コンセプトは『グランメゾン』。パンや菓子があり、カフェもあり、レストランやホテルもあるような場所。顧客の生活のシーン(場面)に寄り添う食を、と考えた」。コンセプトを理解する鍵は、麻布十番という立地環境にある。

 銀座の名店「エスキス」の顔でもあった成田さん。「ハイエンドな客を相手にこれでもかとやり続けてきたが、生活感が欠けていると感じた」。そんな顧客の日常生活に「おいしさ」で浸透できないかと考え、麻布十番への出店を決めた。

 容易な道ではない。「一流レストランを超える食が日常となっている、究極的な人々の暮らしに入り込むということ」。ピエール・エルメやラトリエ・ドゥ・ジョエル・ロブションといった名だたる世界の名店で活躍してきたキャリアを生かし、「そうした店と同等のパーフェクト・クオリティーを提供しなければならない」。成田さんが自らに課したハードルだ。

 自身の技量と経験を余さず注ぐ究極の食は、発信する側と受ける側の双方の共通理解が前提という認識に立つ。そのキーワードとして成田さんが用いる「エデュケーション」という言葉は、教育というより品性やたしなみの育成という色合いが濃いようだ。「食べておいしいと思うのは、その人の過去の経験にひも付くから。エデュケーションであり、嫌いな料理であってもこう調理してこんな味になったなら上手に調理している、と言える人がいる。たしなみがあるということ」

 作り手も同様。「エデュケーションはルールを知ることと言い換えられる。長く続いてきたルールを踏まえ、自分たちのような人間はその先へ一歩だけ踏み出す権利を持つ。伝統を受け継ぎ、アレンジをひとつだけ加えることができる」。食の最前線で活躍し続けてきたプライドがにじむ。

 「今の時代はカジュアルな方向を向き、人は安易に流れている。それは心地よさではなくルーズなだけ。本当の心地よさは、自分の中にあるルールを尊重して生きること。つまりフォーマルということ」。成田さんの矜持(きょうじ)だ。「自分が作り出す食がフォーマルな世界の味覚になるのなら、幸せなことです」

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 <なりた・かずとし 1967年むつ市生まれ。実家は同市の洋菓子店。大湊高校卒。修業を経て仏、伊、米など国内外の一流店でシェフパティシエとして活躍。「アジアのベストパティシエ賞」米ニューヨークタイムズ紙の「ベスト・オブ・ニューヨーク パン・デザート部門1位」など受賞>