「先輩方の助言で画家の生き方に自信が持てた。同様に若い世代と接したい」と語る小柳さん=東京の日本橋三越本店
小柳さんのボタニカルアート「カトレア」

 二紀会委員・監事を務める弘前市出身の画家・小柳吉次さん(77)は、精緻な植物画・ボタニカルアートの第一人者としても知られる。東京の日本橋三越本店で1月に開いた個展では水彩と点描のボタニカルアート、リンゴや杉などの木、モンゴルの雄大な風景を描いた油絵を展示。小柳さんが描く生命力の豊穣(ほうじょう)さに多くの来場者が浸った。

 カトレアのボタニカルアートは、淡い色合いが美しい花弁や葉はもちろん細かな根の一本一本まで描く。「植物が生きるには理屈がある。それを聞き、調べて確認することで見る目が変わる。自分の絵の世界ができていく」。若いころはシュールな絵の制作に傾倒したことも。「若さ故、自然の摂理から一歩離れて自分の世界を作ろうとした」。高い評価を得られず、進むべき道が見えなくなった。

 ある作品に1羽のカラスを描いた。これを見た解剖学者から「何の鳥か。カラスのように見えるが、筋肉の付き方が違う」と指摘された。自然から離れた自己流の芸術は必ず行き詰まる-ルネサンス期のドイツを代表する画家デューラーの言葉が頭をよぎった。「こうした体験があり、自然へ回帰することになった」

 ボタニカルアートでは背景を白く残す。「同じ植物でも野生と栽培では重量感が異なる。描くときに空間を意識することでそれを表現できる。絵は空間で生きる」。繊細で緻密、生きているような植物画は、額の中で世界が完結する。

 一方でモンゴルの風景や故郷の神社にそびえる杉、たわわに実がなるリンゴの枝を描いた油絵は、額の外にまで世界が広がるよう。「かつてモンゴルの草原に立ち、限りない広がりにどこまでも行けると感じた」と小柳さん。リンゴや杉も「生きていくたくましさは絵になる。その強さを前面に打ち出している」と言い、人間よりはるかに長い生命の流れを表現した。

 現在は八甲田のハイマツを描いている。新型ウイルス感染拡大の影響で、帰省しての現地取材が思うに任せない状況が続くが、以前はレンタカーなどで八甲田に入り、木の様子を目に焼き付けた。「地をはうような古い枝と若々しい新芽。俺たちは生きている-という声が聞こえる」。作品は油彩で、200号の大作になる。「入り組んで伸びゆく様子を描くには全ての技術が要求される。とても難しいが、楽しみでもある。青森県から気持ちが離れることはないし、それが私の仕事、人生なんですね」

 <こやなぎ・よしつぐ 1943年弘前市出身。弘前工業高校-拓殖大学卒。81年二紀展初出品、安田火災美術財団奨励賞など受賞多数。2000年に文化庁事業でモンゴル派遣。07年ワシントンで個展。10年県文化賞。講師、著書多数。日本美術家連盟会員、拓殖大客員教授も務める>