「美意識が高い弘前市民にクラフトチョコが注目されている」と須藤さん=東京・中野
バー専門チョコの一部。細密な作りはため息が出るほど

 東京・中野の住宅街にある小さなビルの一室。注目のショコラティエ・須藤銀雅さん(34)=弘前市出身=の工房「アトリエアールガッド」だ。ウイスキーなど洋酒に合う風味を追求するバー専門チョコレートがここで生み出される。

 「酒とチョコとの相思相愛、マリアージュ(結婚)を表現する」と須藤さん。ボンボンショコラ(一口チョコ)は見た目も大切だ。食べるのが惜しくなるほどの美しさは、NHKの美術番組でも取り上げられた。

 須藤さんのチョコは全国約160のバーが取り寄せる。バーという空間で洋酒と味わうことで真価を発揮するため一般販売はない。試作を重ね商品化にこぎ着けたのは30種類近く。「重要なのは香り成分。食の仕事に携わる者は香りを軽視できない」と信念を語る。

 ボクシングに打ち込んでいた高校時代。減量していたある日、洋菓子店に並ぶスイーツに心を奪われた。「試合後に食べるとたまらないうまさ。自分で作りたくなって」、洋菓子職人になると決めた。大阪の専門学校で学んだ後、神戸の洋菓子店に就職して6年間腕を磨いた。友人の手引きで移り住んだ東京でチョコ専門の名店と出合い、ここに勤めることに。「原料のカカオの差、味の素晴らしさ。全てが衝撃的だった」

 ある日、行きつけのバーでマスターに「酒に合うチョコを作れないか」と頼まれた。早速、業務明けの深夜に店で取り組んだ。「どんなチョコが蒸留酒と合うのか。まずは感覚的に作ってみた」。バーの客もマスターも喜び、須藤さんのチョコは評判になった。

 「洋酒に合うチョコ」というビジネスモデルが須藤さんの中で像を結んだ。葛藤もあったが、2016年にアトリエアールガッドを設立し独立。チョコと酒の相性を香り成分から考えた手法が評価され、仕事は軌道に乗った。

 やがてバーの客から「家族にもこのチョコを食べさせたい」という声が上がった。一方、須藤さんの中には故郷を元気にしたいという思いが芽生える。「大好きな弘前が寂れていく危機感があり、またバー専門と別のブランドで一般向けにチョコを作りたいとも」。18年、東北初というビーン・トゥ・バー(カカオ豆焙煎(ばいせん)からの製品生産)のクラフトチョコ店「浪漫須貯古齢糖(ロマンスチョコレート)」を弘前に開業した。

 「チョコの高い親和性を武器に、地元の食材を使ったり、地元企業とコラボするなど、多くの人を巻き込んで地域活性化につなげたい」と須藤さん。バー専門チョコにも一層力を入れていく。「チョコにかける思いと技術はどちらも同じで出力が違うだけ。自分はチョコの本質を追い求めるだけです」

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すとう・ぎんが 1986年、弘前市生まれ。弘前実業高校卒業後、大阪市の製菓専門学校で学ぶ。神戸市の「ファクトリーシン」、都内の「ピエールマルコリーニ」などの勤務を経て2016年独立、都内に「アトリエアールガッド」開業。18年、弘前に「浪漫須貯古齢糖」オープン>