自作の前に立つ佐々木さん。「青は深い精神を表すのにいちばん適した色」=世田谷美術館
「青のあいだ─祈りの空間」の一部

 すっと伸びた背筋。深い青色の上着をまとうたたずまいは芸術家のオーラを漂わせ、大きな目には無垢(むく)な輝きが宿る。「青は薄くても濃くても青、って言葉があるの。子どもたちもきっと理解できると思う」

 東京・世田谷を拠点に、「青の画家」として50年余の活動を続ける佐々木宏子さん。ガラス造形やテキスタイルも行うが絵画制作から離れたことはない。76歳の今も精力的に制作に取り組み、「今夏は新作5枚を描いた」。どの作品にも通じるのが、生涯のテーマである「青のあいだ」だ。

 両親が五所川原市出身。世田谷生まれの自身も愛着がある同市に本籍を置く。「家族や親族は美術に理解がある人たちばかりで」。戦後すぐ、6歳のころ目にした仏の美術家マチスの作品に心を奪われた。「線の1本まで記憶に残った。絵描きになると決めた」

 女子美術大学に進学し洋画を学んだ。成績優秀者に与えられる安宅賞を受賞。賞金で手に入れた伊の美術家フォンタナの作品集に触発される。ナイフで切れ目を入れたキャンバス-。現代美術の到達点は「無」であり「禅」の最高境地と同じだと確信した。さらに純粋な精神世界を表す色は青だと直感。卒業制作の色に青を選び、成功させた。

 無に至る道程を試行錯誤するうち、佐々木さんは自ら目指す精神世界は無から有へ向かうのだと考える。「無意識な存在の自然と、意識的な『もの』。どちらか一方の表現ではだめ」。無と有のあいだを満たすのは、青の精神世界だ-。佐々木さんは「青のあいだ」というテーマに行き着く。

 絵画の制作手法は独特。キャンバスを床に置き、その上に青の顔料を何度も流す。筆は使わず、線は布を使って描く。「流し込み」という技法。「神から与えられた表現方法。コバルトブルーは私の命でもある」

 近年は複数の絵画作品を白壁の部屋に置く「青のあいだ-祈りの空間」に取り組む。9月下旬に世田谷美術館で開いた個展では、7枚一組の作品を自然光が入る3室に展示、それぞれの展示室を一つの作品空間とした。いずれも精神の深淵(しんえん)を表現する青と白の空間。「今だからこそ祈りの空間が必要。体や心が弱った人々が生命感を感じてくれればいい」と佐々木さん。特に子どもたちに自身の作品を見てほしいという。

 「5歳前後から小学低学年ぐらいって、豊かな感性や精神のもとが育つ時期だと思うから。昔なら身近な野原なんかでたくさん遊び、何かを得ることができたでしょうが、今はそんなことがなかなかできない環境になっちゃったし」。遠くを見るようなまなざし。視線の先には、マチスの絵に夢中になった幼き日の自身の姿があるのかもしれない。

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 <ささき・ひろこ 1944年、東京都世田谷区生まれ。67年、女子美術大学卒業。同大で助手から教授まで務めつつ作品を制作。2010年に退任、佐々木宏子財団設立。女流画家協会展や新制作協会展で受賞多数。作品や作品集は仏、伊など海外の美術館・図書館に多数収蔵されている>