最高裁は15日、日本郵便の契約社員に扶養手当などの支給を認める判断を示し、非正規労働者の待遇格差を巡る5訴訟の判決が出そろった。手当や休暇の付与は広がった一方、賞与と退職金という賃金の「本丸」は格差是正の道筋が示されず、経営側には早くも待遇改善をためらう動きが出ている。根本的な是正に向け、終身雇用が特徴の正社員の待遇を優先してきた日本型雇用が変容を迫られている。

 ▽誤った解釈

 最高裁が非正規への賞与と退職金の支払いを認めない判決を言い渡した13日夜。関東地方の大学と、非正規への賞与支給などを求め団体交渉に臨んだ労働組合「プレカリアートユニオン」の清水直子(しみず・なおこ)委員長は大学側の強硬な発言に耳を疑った。「不合理な格差に当たるとは考えない」。判決前は労組の訴えに耳を傾ける姿勢を示していたが態度を硬化させた。

 清水委員長は「判決が早速影響した。どんな格差も認められるとの誤った解釈が広がる恐れがある」と危機感をあらわにした。

 13日の判決は、賃金体系の決定に経営者側の裁量を広く認めつつ、雇用環境次第では「不合理な格差」が認められることがあり得ると指摘。補足意見で労使交渉の重要性にも言及した。連合の神津里季生(こうづ・りきお)会長は15日、「格差の実態を把握した上で労使で議論を積み上げることが重要だ」と強調、非正規の組織化を進めるとした。

 ▽基準

 4月から大企業に導入された政府の「同一労働同一賃金」は、来年度から中小企業にも対象が広がる。だが日本商工会議所が5月に公表した調査では、対応にめどがついている企業はわずか46.7%。業務内容や責任ごとに判断する内容が分かりにくいとの声は多い。担当者は「今回の判決は、今後の基準として企業に広まるのではないか」とみる。

 ただ、現場の困惑は大きい。群馬県で金属加工会社を営む男性は「待遇を同じにしてしまうと、頑張っている正社員がへそを曲げる。配偶者控除の範囲で働きたい人も多い」と悩ましげだ。

 政府が設けた相談窓口に企業から寄せられた相談は2018年4月の開設以降、計約2万2千件に上る。「同一」の定義のあいまいさもあり、「そもそも同一労働同一賃金の内容を知りたい」といった相談があるという。

 ▽違い

 15日の最高裁判決は、契約更新を繰り返して長期間働いている原告に、支給の趣旨が明確な扶養手当などを認めないのは「不合理」と断じた。

 一方、退職金を認めなかった13日の判決は、正社員は非正規と仕事内容はほぼ同じでも、配置転換があることや責任が重いことを重視。人事異動や転勤を受け入れる、典型的な正社員像を基準にしたと言える。

 従来の司法判断でも、基本給や賞与、退職金といった賃金の根幹部分は正社員と非正規との違いが強調されやすい傾向にある。

 育児や介護、定年などの理由で正社員以外の多様な働き方を求める人は増えている。労働力不足が深刻になる中、そうした人たちが適正な待遇で働ける仕組みがなければ社会が立ちゆかない。

 龍谷大の脇田滋(わきた・しげる)名誉教授(労働法)は「日本型雇用は非正規への差別を前提としており変えていくべきだ。日本型雇用を踏まえた今の法律の枠組みでは、これ以上の是正は難しい」と指摘した。