新型コロナウイルスの感染拡大防止のため紙上大会として開かれた、東奥日報社と東奥日報文化財団主催の第74回県俳句大会。「森の座」代表で、俳人協会評議員の横澤放川氏による特別選(「夏季雑詠」)や宿題(「香水」「万緑」「詠み込み・埴輪、土器、土偶」)の入選作品を発表する。

●特別選 「夏季雑詠」横澤放川 選
◇天位
 消えかかる虹を待たせて母を呼ぶ 弘 前 中澤 玲子
【評】思わずほほ笑まれるこころ弾みの一句だ。待ってくれるはずもない虹を見せたい一心がよく伝わってくる。飄逸(ひょういつ)な表現をそれでも愛情の一句としているのは「消えかかる」の哀歓の一語の力だ。
◇地位
 青蘆の跪坐成すみさき千空碑 深 浦 草野 力丸
【評】成田千空の句碑が据わる深浦行合崎の景だろう。夏はニッコウキスゲが咲き乱れ蘆叢が風に騒ぐ。句碑を囲み岬風に臥(ふ)しがちなその青蘆を、さながら涅槃図(ねはんず)の羅漢らの如く跪坐(きざ)と捉えた。千空賛歌。
◇人位
 三伏や田の風重くたたみくる 五 戸 鈴木志美恵
【評】金気すら火気を畏れて伏す極暑の候。稲はそれをしのいで穂孕(はら)みを達成してゆかなければならない。そんな炎暑をたたみくる風は確かに重たかろう。田面の広大さと風土のこころがよく知れる。
◇秀逸
 祭なき夜の静寂に笛ながれ 青 森 中島 五郎
 八月の摩天楼めく棒グラフ 東 北 井上 健蔵
 風鈴列車太宰の町を発ちにけり 青 森 小野 寿子
 どの子にも山彦応へ夏来る 青 森 齊藤 君子
 「はやぶさ」の横顔まぶし夏の旅 弘 前 六 花
◇佳作
 奪衣婆の歯の零れ落つ炎暑かな 弘 前 佐藤いく子
 時々は岩木嶺あおぐ草刈女 青 森 秋谷美智子
 啓白と敬具のあはひ夜の秋 青 森 太田 直樹
 軽トラに神輿鎮座し村を練る 青 森 松橋喜世美
 宵宮より拔けて夫婦の歩となれり 青 森 大澤 映城
 炎天や洗車ホースの暴れだす 十和田 江渡永見子
 ふるさとに恍惚の母虹立ちぬ 青 森 牧 ひろし
 写生帖閉づみんみんに耳あづけ 八 戸 江口 みよ
 響き聴く南部風鈴北の駅 七 戸 新田 純治
 審判の拳の勢ひ夏終る 風間浦 蛸嶋八重子
 シャツを手に追ふ裸児や波光る 八 戸 奥田 卓司
 後部席たなばた笹を押し込めて 八 戸 河村 仁美
 大青田北へ北へと太宰の地 青 森 布施 協一
 鶏がをちこち逃げて立葵 弘 前 石﨑 志亥
 立ち上がるかたちに蚯蚓乾きけり 八 戸 村田加寿子
 常ならばどこからとなく祭笛 青 森 小林 とみ
 千空の句集身際に端居かな 弘 前 千葉 新一
 踊りの輪抜け胸元をゆるめては 弘 前 葛西 小櫻
 山桜桃の実ふふみ母郷をとほくせり 青 森 本間 寧
 瘡蓋の下にうす皮終戦日 八 戸 植村 可南

●宿題 「万緑」(推薦5句)
◎野村英利 選
 万緑の遍路へ沁みる鐘一打 東 北 井上 健蔵
 万緑や故郷と言へど墓ひとつ む つ 永倉 みつ
 万緑や小石でおさへ山の地図 鯵ケ沢 南 美智子
 萬緑や嬰の笑顔の涙つぶ 十和田 中野渡 悟
 万緑や胎の子腹を蹴り始む 十和田 佐々木寿子

◎櫛引麗子 選
 万緑を抜けて五体の軽くなる 青 森 澁田 紀子
 万緑の上に白神ぶな樹海 深 浦 草野 力丸
 万緑の底にランプを灯す宿 黒 石 小田桐由紀子
 万緑へ若きいたこの深呼吸 弘 前 竹浪 克夫
 万緑や連弾の如雨の打つ 弘 前 中澤 玲子

◎後藤岑生 選
 万緑の中に微笑む石仏 む つ 村木 謙二
 万緑や乳房やさしき遮光土偶 青 森 坂元 正子
 万緑の空少年の帽子舞ふ 青 森 牧 ひろし
 万緑や谺のごとき一家族 青 森 長島 喜美
 万緑や余生の夢の深き色 青 森 鈴木 操

◎高橋千恵 選
 職引きし朝万緑の山仰ぐ 青 森 柏原 昭三
 万緑や亡き母のこゑ聞いたよな 青 森 秋元ヱミ子
 万緑や見上げて話す子の背丈 八 戸 河村 仁美
 万緑や水脈鮮やかに遊覧船 八 戸 佐々木雅翔
 輸血後の窓の万緑迫り来る 三 沢 阿久津凍河

◎吉田紅一 選
 万緑のなか草田男碑千空碑 青 森 蝦名 石蔵
 万緑や縄文の魂脈々と 青 森 成田 晃子
 万緑や行者踏み行く五千段 八 戸 江口 みよ
 万緑や被曝大樹の枝張りぬ 板 柳 くどうひろこ
 沼七つ大万緑に抱かれて 青 森 木村 秋湖

◎鳴海顔回 選
 万緑の中ひつそりと道普請 青 森 山田のぶ子
 万緑や誰も草田男にはなれず 三 戸 久慈 月山
 一本の橋万緑を突つ切りぬ 弘 前 畠山 容子
 万緑や谺のごとき一家族 青 森 長島 喜美
 万緑や揺るるほど空小さくあり 八 戸 田端 千鼓

◎金田一一子 選
 万緑の底ひに静かなる大河 八 戸 西川 無行
 万緑の上に白神ぶな樹海 深 浦 草野 力丸
 万緑やまだ踏ん張れる骨密度 藤 崎 五十嵐かつ
 万緑や行者踏み行く五千段 八 戸 江口 みよ
 万緑や巖の顔の並ぶ山 む つ 畑中とほる

◎小野寿子 選
 万緑や一雨あれば心まで 青 森 伊丸岡慶子
 万緑やまだ踏ん張れる骨密度 藤 崎 五十嵐かつ
 万緑や結願の杖ささくれて 藤 崎 清水 雪江
 病める子の眸に万緑の雲高し 五所川原 三上悠恵子
 沼七つ大万緑に抱かれて 青 森 木村 秋湖

●宿題  「香水」(推薦5句)
◎大瀬響史 選
 メトロノームゆるき反復香水立つ 青 森 福井千恵子
 香水に別の人柄しのばせて 青 森 中島 五郎
 香水を変へて他人となりにけり 青 森 太田 直樹
 香水を鎧に銀座七丁目 青 森 島田よう子
 香水に縁なき母のおみそ汁 十和田 佐々木寿子

◎石﨑志亥 選
 留守電に妻の伝言香水瓶 大 間 和田たかし
 香水やクローゼットは黒ばかり 青 森 木村 栄子
 香水の乾らびて文の束の中 藤 崎 五十嵐かつ
 香水や母の針箱鍵かけて 十和田 中村しおん
 香水の瓶のぽつりと子の机 八 戸 山谷 文子

◎中村しおん 選
 香水に別の人柄しのばせて 青 森 中島 五郎
 香水のほのと女将の京言葉 八 戸 西川 無行
 香水も知らぬモンペの妣なりし 東 北 浅井 桐花
 亡き夫のペンと手帳と香水と 青 森 長島 喜美
 香水やうなじに黑子ひとつ見え 八 戸 三ケ森青雲

◎南美智子 選
 一滴の香水纏ひシャンソンへ 青 森 成田 晃子
 香水を耳朶に少女の羽化始む 十和田 佃 正子
 遺されし巴里の香水老女逝く 青 森 関 礼子
 香水も知らぬモンペの妣なりし 東 北 浅井 桐花
 香水の香のさつそうと追ひ越せり 五所川原 櫛引 麗子

◎松宮梗子 選
 潮の香の香水纏ひ母逝きし む つ 瀨川 文子
 施設への妻に香水シャネルの五 深 浦 草野 力丸
 香水や時には悪女時に書家 青 森 齋藤 修子
 香水や嫗翁に手を引かれ 八 戸 郡川 宏一
 永別の母に香水ひとしづく 青 森 浜田しげる

◎三ケ森青雲 選
 香水の香のさつそうと追ひ越せり 五所川原 櫛引 麗子
 香水や山門くぐる異邦人 十和田 小林 五月
 観劇の席に香水仄かなり 青 森 村山 いう
 香水を鎧に銀座七丁目 青 森 島田よう子
 香水に縁なき母のおみそ汁 十和田 佐々木寿子

◎畑中とほる 選
 香水は母のにほひよ参観日 青 森 伊藤 芳博
 香水を振るや柩の母の胸 青 森 竹浪 幸子
 香水の残り香ありし参観日 青 森 千葉 禮子
 香水ののこり香放ち衣紋掛 む つ 井手上省子
 香水は最後の仕上げ人と逢ふ 大 間 金田一一子

◎吉田千嘉子 選
 香水やあの日箪笥に入れたまま 深 浦 蒲田 幸子
 香水の飛び込んで来し雨宿り 弘 前 坂本 幽弦
 香水より美しき瓶好きになる 弘 前 長利 冬道
 嬉しさを香水に秘め駅に佇つ 青 森 七戸富美子
 香水やそつと耳打ちされてをり 八 戸 今 順子

●宿題(詠み込み) 「埴輪」「土器」「土偶」(推薦5句)
◎坂本幽弦 選
 謎多き復元土器や夏館 む つ 寺岡 洋子
 幾万の流星見しや土偶の眼 青 森 髙橋まちこ
 千年を座して夜長の土偶かな 八 戸 河村 仁美
 土器蔵ふケースの映す夏帽子 八 戸 田端 千鼓
 土器の縄目かれらもめでし稲の花 青 森 木立 邦子

◎鈴木志美恵 選
 「ほー」と口あくる埴輪や夜の秋 十和田 佃 正子
 口開けて埴輪のやうな昼寝の子 五所川原 葛西 幸子
 まほろばの証の土偶栗の花 青 森 浜田しげる
 さはやかや土器に遺れる生活痕(たつきあと) 八 戸 下河原 勝
 星涼し何も語らぬ土偶の目 弘 前 対馬 迪女

◎千葉禮子 選
 月涼し土器に太古の匂ひあり 深 浦 蒲田 吟竜
 父の日や形見となりし土偶たち 五所川原 福士 信之
 土器並ぶかつての校舎やんま来る 青 森 宮川 暢子
 麦の秋句友にしたき土偶かな む つ 相馬 禮子
 人去りて土偶は今を夏と知る 八 戸 越後 則子

◎関礼子 選
 「ほー」と口あくる埴輪や夜の秋 十和田 佃 正子
 遮光土偶縄文びとのサングラス 東 北 浅井 桐花
 晩夏光土器に太古の染み深く 三 沢 赤沼 淑子
 埴輪の馬駆け出しさうな夏野かな む つ 髙橋千夜湖
 合掌を解かぬ土偶や夏深し 八 戸 佐々木ツタ子

◎日野口晃 選
 原爆忌土偶は何を祈りしか 弘 前 大瀬 響史
 昼寝覚め埴輪の目玉無くしたり 青 森 川村 英幸
 峰雲や土器に太古の火のにほひ 平 川 後藤 朋子
 幾万の流星見しや土偶の眼 青 森 髙橋まちこ
 時間など無意味と埴輪蝉時雨 弘 前 六 花

◎対馬迪女 選
 土偶の目に縄文の闇星涼し 弘 前 成田 圭子
 口呼吸してゐる土偶炎暑かな 弘 前 畠山 容子
 晩夏光土器に太古の染み深く 三 沢 赤沼 淑子
 幾万の流星見しや土偶の眼 青 森 髙橋まちこ
 夏ぐみや埴輪の世にも煮炊きの火 青 森 齊藤 君子

◎草野力丸 選
 炎昼の男土偶の足をもぐ 黒 石 鳴海 顔回
 陶工の土器の大皿トマト盛る 大 間 金田一一子
 縄文土器に噴きこぼれの跡梅雨曇 五所川原 櫛引 麗子
 蝉しぐれ埴輪乙女は耳ふさぐ 五所川原 松宮 梗子
 縄文の土器の発掘炎天下 青 森 木村 秋湖

◎木村秋湖 選
 月涼し土器に太古の匂ひあり 深 浦 蒲田 吟竜
 土器眠る丘広広と星月夜 青 森 七戸富美子
 千年を座して夜長の土偶かな 八 戸 河村 仁美
 土器土偶あまた眠る地雲の峰 八 戸 三野宮照枝
 縄文土器眠るふるさと夏の月 十和田 佐々木寿子