身長185センチ、肩幅の広い、がっしりした体を揺らし、大きなストライドで急で長い石段を軽々と上っていく。腰には4キロのおもり。3本目、4本目…。ひんやりした空気の中、繰り返す度に汗が噴き出す。

久渡寺の石段を駆け上がる樋口さん

 世界マスターズ連覇を狙う中、コロナ禍に見舞われ、練習環境が奪われた。主な拠点は秋田県北秋田市のプールで、1時間少し車で走れば着くというが、新型コロナウイルス感染拡大防止のため県境越えを自粛。プールに入る機会が激減し、4月下旬から5月の連休明けまで17日間という、選手としては経験したことのない長期間、プールに入ることができなかった。最後に同プールで泳いだ時は50メートル10本の平均でベストタイムが出るなど調子が良かっただけに「残念」と言う。

 弘前市出身。子どものころは青森市に住む野球少年で、青森山田高校に進学した。野球で伸び悩み「何げなく」、それまでほとんど経験のない水泳に転向。高校2年生で東北大会に出場し、3年生の県高総体50メートル自由形で優勝。県室内選手権でも50メートル自由形を県最高記録で制した。

 進学した青森短大では東北大学総体50メートル、100メートル自由形2冠の連覇を達成したが、肩を壊したこともあり短大卒業後は競技から離れ上京した。水泳とは無縁の生活を送る中、2008年北京五輪の日本競泳陣の活躍を目にして再び闘志に火がついた。帰郷し、13年には50メートルバタフライで県記録を更新、競技者として復活を果たした。

 けがと闘いながらマスターズ水泳で結果を出し、昨年は世界王者となったものの、来年、福岡で開催されるはずだった同大会は22年に延期。マスターズは年齢区分ごとに競うため、次回は35~39歳のクラスに出場する。課題は精神面。王者となった昨年の世界マスターズでも、大会が近づくと他国の選手が気になって焦りが強くなり、自信喪失した時期もあった。コロナによる自粛ムードが続く中、この機会にと青森市の青龍寺で、座禅に取り組み始めた。

 18年にプロとなってからは、スポンサーを自ら開拓し、現在は9社の支援を受ける。「新型コロナの影響で、企業の業績も厳しくなっている。いつ、支援が打ち切られるか分からない」と危機感を語りつつ、コロナ後を見据え、今できることをこなすのみと、トレーニングを欠かさない。「引退するのは死ぬとき。生涯現役」。けがと闘い、筋力だけに頼らない、理想の泳ぎを追い求め、長水路23秒26の自己ベストを上回る22秒台を目指す。