わさお へ

昨日と今日と、朝の光がなんか物足りない。晴れなのに。
チビの時も母さんの時もつばきの時もそうだったけど、なんか物足りないんだよ。
この朝は、その人達には来なかった朝なんだな、そう思うだけで光量が落ちるみたいだ。
変なもんだ。
でも、世界は簡単に回っていくんだってさ。だからそのうち、いずれきっと慣れちゃうんだろうね。
変なもんだ。

そんなこと思いながらちょめと散歩に行ったわけさ。
昨日は散歩の途中にあなたの家に寄ったんだ。
気づいてくれたかな?
ちょめとあなたを会わせたかったんだ。最期だからね。

ちょめは静かに臥したあなたの姿に、どうしたらいいか分からないみたいだった。
戸惑ってるのか嫌がってるのか無関心なのか、それはちょめにしかわからないけど。
そのかわり、父さんにはグイグイ行ってたな。
遊びたいのか励ましたいのかからかいたいのか、それもちょめにしかわからないけど。

今日のちょめ散歩はちょっとわがままモードだったんだ。
ぐいぐいあちこち引っ張ってさ。
あなたにちょめを叱ってもらいたいな。
ちょっとだけでいいから、戻ってきてくれないかな。

ちょめを店に連れていってからのルーチンも少し変わっちゃったよ。
いつもなら、あなたの薬を用意してたでしょ、朝と夕方の。
そんで、大好きなササミのおやつにそれを仕込むんだよ。
で、「わさお、おはよー」っていいながら、機嫌をうかがいつつ、朝の分をどうぞって流れだったじゃないか。

あの日、朝の分はばくばく食ったくせして、夕方のはまだ食べてないだろ、どういうことだよ。
さっき捨てたよ。
やっと捨てたよ。
もう作ってやんないよ。

そもそもだ。
そのササミおやつもそろそろ無くなるな~と思ったからその日のお昼に補充してたんだぜ。
どーすんのよ、これ。
全部食ってからにしろよ。そういうルールにしとけばよかったよ。
そしたら絶対在庫切れないように補充しつづけてたのにさ。
しょうがないから、ちょめにあげちゃうからね。答えは聞いてない。

そういえば、鶴瓶さんが心配して電話かけてきたんだぞ。
ちょうどあなたが煙になって空に登っていく時に。

映画撮ってもらった錦織監督からも電話かかってきたんだぞ。
おかげで、スクリーンの中でいつでもあなたに会えるじゃないか。

映画のプロデューサーだった伊藤さんからも電話かかってきたんだぞ。
あなたと三船敏郎さんに同じ雰囲気があるって言ってくれた伊藤さんだよ。

あなたを大好きだった志村どうぶつ園の壁下Dとも話をしたよ。
お互い泣きながらの話になっちゃったじゃないか。
お互い我慢してたのに、結局泣いちゃったじゃないか。

テレビや新聞の人ともいっぱい話をしたよ。
記事や報道は簡潔だけど、みんなそれぞれ、あなたのことを思っていたよ。
自分も犬を飼ってますとか、東京いったとき会いに行きましたとか。
みんなそれぞれエピソードをもってたよ。

その報道を見聞きしたすごくすごく沢山の人たちが、あなたのことを思ったり話たりしてるんだぞ。

あなたはやっぱ、すごいわ。

そして最期もすごかったわ。

眠るようにやすらかに呼吸をやめたじゃないか。
痛がらず苦しまず、すーっと。
思い切りよく潔く、すーっと。

それ普通テレビドラマの中でしか見ないから。
「こんな終わり方いいよね、でも無理だよね」ってみんなが思ってるやつだから。

プロデューサーの伊藤さんがこう言ってたよ。

「母さんが迎えに来たんじゃないですか? わさお、もういいから十分だから、こっちこいって。」

そうだろうね、そうかもしれないね、そうじゃないとね。

だって、あなたはずっと決めてたからね、また母さんに会うんだって。

母さんに会う日までは、ずっとここにいるんだって決めてたからね。
そういう目をしていたからね。

よかったじゃないか。

母さんに会ったなら、チビやつばきやグレ子にも会ったんだろ?

よかったじゃないか。

ついでにみんなを引き連れて、こっち帰ってきてくんないかな?
できるだろ、あなたなら、できるんじゃないのかい?

だってあなたの顔は、あなたの最期の表情はどうみたって寝てる顔。
いつもの熟睡顔だよ。つきたての餅みたいにぺったんこになってるやつ。
起きるだろ? 目が覚めるだろ? そんな表情じゃないか。

そんな顔で天に帰る奴がいるか? いないよ!

あなたは、さいごまでわさおだよ。
唯一無二のわさおだよ。

死しても尚わさおだったよ。

ありがとう…。