【主文】
 被告人を懲役20年に処する。未決勾留日数中480日をその刑に算入する。

 【理由】
 ◇罪となるべき事実

 被告人は、平成30年9月22日午前1時8分頃、青森県北津軽郡鶴田町大字妙堂崎字崎尻44番地2付近道路において、運転開始前に飲んだ酒の影響により、前方注視および運転操作が困難な状態で普通乗用自動車を運転し、時速約129キロないし138キロで同車を走行させ、もってアルコールの影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させたことにより、同日午前1時9分頃、同県つがる市森田町下相野亀山86番地付近道路を鯵ケ沢町方面から五所川原市方面に向けて進行中、意識もうろう状態ないしは仮睡状態に陥るなどしながら、自車を時速約163キロまで加速させた上、自車前方を同一方向に進行中の廣船淳(当時43歳)運転の普通乗用自動車(軽四輪)に直前に迫って気付き、急制動の措置を講じたが間に合わず、同車後部に自車前部を衝突させ、その衝撃により、前記廣船運転車両を左前方に逸走させ、同車を進路左側に設置された防雪柵に激突させて、さらに、その反動で同車を対向車線に逸走させ、折から対向進行してきたA(当時58歳、判決文は実名、以下同)運転の普通乗用自動車(軽四輪)前部に前記廣船運転車両右側面後部を衝突させるとともに、同車との衝突の衝撃により自車を対向車線に逸走させ、折から対向進行してきた山田春治(当時63歳)運転の普通乗用自動車(軽四輪)前部に自車前部を衝突させ、よって、前記廣船に脳挫傷の傷害を負わせ、同日午前3時40分頃、同県西津軽郡鯵ケ沢町大字舞戸町字蒲生106番地10所在のつがる西北五広域連合鯵ケ沢病院において、同人を同傷害により死亡させ、同人運転車両同乗者廣船愛莉(当時30歳)に腹腔内出血等の傷害を負わせ、同日午後1時44分頃、同県五所川原市字岩木町12番地3所在のつがる西北五広域連合つがる総合病院において、同人を同傷害による出血性ショックにより死亡させ、前記山田に多発骨折の傷害を負わせ、同日午前4時10分頃、前記鯵ケ沢病院において、同人を同傷害による出血性ショックにより死亡させ、同人運転車両同乗者山田久美子(当時46歳)に肺挫傷の傷害を負わせ、同日午前3時50分頃、同病院において、同人を同傷害により死亡させたほか、前記Aに加療約2カ月を要する右膝挫創、右足関節内果骨折等の傷害を、自車同乗者B(当時32歳)に全治約1カ月を要する多発肋骨骨折、左耳介裂創の傷害を、自車同乗者C(当時33歳)に加療約1カ月を要する左側頭部皮下血腫、左耳介挫創の傷害をそれぞれ負わせた。

 ◇争点に対する判断
 1 本件の争点は、(1)本件事故当時、被告人がアルコールの影響により正常な運転が困難な状態であったか、また、(2)被告人がその状態を認識していたかである。

 2 争点(1)について
 (1)本件事故は、被告人が、夜間、指定最高速度が50キロ毎時の見通しのよい片側一車線の直線の国道上で被告人車両を運転して走行中、同車両を先行車両に追突させたというものである。そして、被告人車両の速度は、本件事故現場の約0.8キロメートル手前を通過する時点で既に法定速度を大幅に超える時速約129キロないし138キロであり、その後もさらに加速して追突の約2秒前には時速約163キロであったと認められる。本件事故当時、降雨により路面が湿潤で滑りやすい状況であったことも踏まえると、こうした被告人の運転態様は、本件事故現場の約0.8キロメートル手前を通過する時点において、正常な状態にある運転者であれば考えられないような、本件事故当時の道路状況に明らかにそぐわない異常なものであったといえる。

 また、関係証拠によれば、被告人は、本件事故現場の約200ないし300メートル手前の地点までには、先行車両のテールランプ等を発見し、その存在を認識できたこと、それにもかかわらず、先行車両に追突する約2秒前まで被告人車両のアクセルを踏んで同車両の加速を続け、衝突直前に至って初めて急制動の措置を講じており、先行車両の存在に直前まで気づいていなかったことが認められる。被告人車両の速度等を勘案すると、被告人は、約4ないし6秒程度の間、先行車両の存在を認識しないまま高速度運転を続けていたことになるが、このような運転行為に及ぶことも、正常な状態にある運転者であれば通常考え難い異常なものといえる。

 以上のような本件事故直前の運転態様からすれば、被告人は、本件事故現場の約0.8キロメートル手前の地点を時速約129キロないし138キロの速度で被告人車両を走行させていた時点で、道路交通の状況等に応じた運転操作を行うことや、前方を注視して道路状況等を的確に把握して対処することが困難な状態にあったと認められる。

 さらに、関係証拠によれば、本件事故直前、被告人車両を運転中であった被告人が同乗者Cの呼びかけに応じないことがあり、同人が「起きでらか」などと声をかけると、被告人は体をビクッとさせ驚いた様子であったことが認められる(なお、同事実については、Cの検察官に対する供述調書によって認定したが、この点に関する同調書の内容は、会話の文言等が具体的であり、他の証拠に照らして不自然な点はなく、同人が飲酒をしていたことを踏まえても、十分信用できる)。このような本件事故直前のCの呼びかけに対する被告人の反応に加え、被告人が運転開始前および本件事故後に眠気を訴えていたと認められることも踏まえると、被告人は、本件事故当時、被告人車両を運転中に一時的に意識もうろう状態ないし仮睡状態に陥ることがあったと考えられ、このことからも、被告人は、前方を注視して道路状況を的確に把握し得る状態にはなく、正常な運転が困難な状態であったことが裏付けられる。

 (2)その上で、本件事故当時の被告人の状態へのアルコールの影響についてみると、関係証拠によれば、被告人は本件事故前日午後7時頃から当日午前0時20分頃までの間に、350ミリリットル入り缶ビールを少なくとも2、3本、ハイボールを7杯くらい飲酒していたこと、本件事故の約5時間15分後に採取された被告人の血液の血中アルコール濃度は1ミリリットル当たり1.04ミリグラムであり、本件事故当時の呼気中アルコール濃度は1リットル当たり0.81から1.02ミリグラムと算出されたことが認められる。そして、上記の程度のアルコール濃度を保有する者には、一般的に、認知能力の低下、言語不明瞭、運動失調、眠気等の症状が現れるところ、このような酩酊(めいてい)の症状は、前記のとおりの被告人の運転状況や本件事故前後の眠気を訴える言動等と整合している。以上に加え、本件事故当日の被告人の健康状態に特段問題はなく、アルコールの他に被告人が危険な高速度運転に及んだ原因は想定し得ないことに鑑みれば、被告人が正常な運転が困難な状態に陥った原因がアルコールであることは明らかである。

 (3)以上によれば、被告人は、本件事故当時、アルコールの影響により正常な運転が困難な状態であったと認められる。

 (4)これに対し、弁護人は、本件事故前に立ち寄ったコンビニエンスストアにおいて、被告人がATM(現金自動預払機)の操作や買物を問題なく行っていること、本件事故現場に至るまで、被告人が交差点や踏切、暗く狭い道路等の緊張を強いられる道路状況に応じた運転をしていることなどを指摘して、正常な運転が困難な状態であったとはいえないと主張する。

 しかし、事故前に一定の社会生活上の動作や正常な運転操作ができていた部分があるからといって、その後も正常な運転をなしうる状態であったとはいえない上、弁護人の指摘するような道路では、そもそもスピードを出しにくく、慎重に運転せざるを得ないため、被告人の酩酊の影響が顕在化しなかったにすぎないと考えられる。したがって、弁護人が指摘する事情は、本件事故当時、被告人がアルコールにより正常な運転が困難な状態にあったという上記認定を左右しない。

 3 争点(2)について
 前記のとおり、被告人は、運転開始前に、数時間にわたって相当な量の飲酒をしているのであるから、運転開始時もアルコールを自身の体内に保有していることを当然自覚していたと認められる。

 そして、被告人による前記のような著しい高速度運転は、意識がある状態でアクセルを踏み込み続けて加速しない限り行えないこと、被告人は、前記のとおりCから呼びかけられ、さらに、スピードを落とすように注意されたのに対し、「おう」などと返事をしていることからすれば、被告人は酩酊の影響で一時的に意識もうろう状態ないし仮睡状態に陥ることがあったにせよ、意識を失うことなく運転行為を続けていたのであり、そうである以上、自らが高速度運転をしている状況等も認識していたと認められる。

 したがって、被告人はアルコールの影響により正常な運転が困難な状態であることを認識していたと認められる。

 ◇量刑の理由
 被告人は、呼気中アルコール濃度が1リットル当たり0.81から1.02ミリグラムという相当高濃度のアルコールを身体に保有する状態で、時速約129キロないし163キロという、制限速度を著しく超える高速度で自車を走行させており、その運転の態様は極めて危険性の高い悪質なものである。その結果、前方を走行する車両に時速80キロを超える速度差で自車を追突させ、さらに対向車線を走行する2台の車両をも巻き込む悲惨な多重事故を引き起こした。これにより、全く落ち度のない4名もの尊い生命が奪われ、また1名が重傷を負ったほか、飲酒を知りながら被告人車両に同乗した結果とはいえ、2名の同乗者も負傷したのであり、本件事故により生じた結果は誠に重大である。突然未来を奪われた4名の被害者らの無念は察するに余りあるし、かけがえのない家族を失った遺族の悲しみも深い。いずれの遺族も、本件公判の開始前に何ら謝罪の意思を示そうとせず、公判においても遺族への謝罪より自身の家族や友人への配慮を優先するかのように見える被告人の態度も踏まえて、峻烈(しゅんれつ)な処罰感情を述べているが、それも当然といえる。また、重傷を負った1名の被害者についても、本件事故により大きな肉体的苦痛を受けたばかりか、負傷の影響等から不自由な生活を強いられている。

 被告人が飲酒運転をしたのは、同乗者がスナックに行きたいと述べたことがきっかけとなっているものの、さらに飲酒したいという身勝手な理由からであり、交通ルールを順守するという意識を明らかに欠いた行動で、その動機や経緯に酌むべき余地はない。

 以上によれば、被告人の刑事責任は重大であり、本件は、危険運転致死傷の事案の中で最も重い部類に属するものといえる。

 かかる位置付けを前提とすると、被告人が、本件事故の原因が自身の運転にあることを認め、不十分ながらも反省の態度を示していることを考慮し、さらに、被告人車両が加入していた保険により、被害者のうち、重傷を負った1名との間では示談が成立し、死亡した4名との関係でも今後適切な賠償がなされることが見込まれること、被告人の親族が監督を約束していることなど、弁護人が指摘する事情を踏まえて検討しても、具体的に刑期を減じるべきとはいえず、被告人に対しては、主文の刑に処するのが相当である。