「自分を必要としてくれるマットがあれば、国外にもどんどん出向く」。レスリング女子で東京五輪出場を逃した伊調馨さん(35)=八戸市出身、ALSOK=が2020年2月8日、競技生活の原点でもある同市武道館で、指導者としての夢を明かした。型にはめず、押しつけず、選手ファーストで「第二の馨」を育てていくことを誓った。

 「哲学者」「職人」。国内レスリング関係者がそう例えるように、伊調さんの卓越した理論と輝かしい実績に、海外の評価も高い。2017年にはレスリング大国・イランの協会から特別コーチとして招聘(しょうへい)され、指導者候補にコーチをした経験がある。現在も米国や欧州など女子強化を目指す国々からのオファーが後を絶たないという。「まだまだ体は動ける。日本の技術を実際に伝え、盛り上げていきたい」。視線は世界を向いている。

 2年前。かつて指導を仰いだ協会前強化本部長によるパワハラ騒動が表面化した。コーチとの関係がそれぞれの可能性を大きく左右する格闘技。それだけに「型にはめず、その子のレスリングを尊重させたい」と実感を込めて話す。

 理想の指導者像として掲げるのは、全幅の信頼を置く八戸クラブの恩師・澤内和興代表(73)だ。「(澤内)コーチはレスリングの楽しさを教えてくれた。その思いを伝え、自分から競技を続けたい、相手に勝ちたいと思ってもらえるようにしたい」

 8日、約60人の子どもたちが集まったレスリング教室で、伊調さんはさまざまな技を披露した。試合の時とは打って変わって柔らかな笑みで励まし、褒める姿が印象的だった。

 一緒に記念写真を撮った高橋叶実さん(市川中1年)は「教え方が分かりやすい。オーラもあって、体が大きく見えた」と声を弾ませた。

 昨年12月の全日本選手権では、五輪出場を目指す大学生のセコンドにつき、優勝を後押しした。手腕に期待する声は日増しに高まっている。

 澤内代表は「海外で勉強して、もっと成長してもらえたら」とエールを送る。ALSOKの大橋正教監督(55)も「選手の長所を伸ばし、大きく育てる指導をしてほしい」と願った。

 

【伊調さんとの主な一問一答は次の通り】

 ―現在、どれくらい練習を。
 「毎日練習場には行くが(五輪を目指していた)一時期よりも練習量は抑えている」

 ―「過去、最も困難な道のり」と位置づけていた東京五輪を逃した。
 「勝負の世界なので、挑戦したことに後悔はしていない。昨年夏のプレーオフは、史上最高の(状態の)自分で試合ができた。今はすごくさっぱり、すっきりしている。あの挑戦は、これからの人生のプラスになると信じている。前向きに捉えたい」

 ―これからの選手、指導者としての目標は。
 「うまくなりたい―と一貫してレスリングを追求してきた。そのスタンスは、年を取っておばあちゃんになっても変わらない。指導者としては、選手目線で教えていきたい」

 ―レスリングを好きな理由は。
 「楽しいし面白いし、難しい。そこにやりがいがある。人間は忘れていく生き物。練習を重ね、体で覚え、もっともっと進歩していきたい」

 ―これまで第一線を走り続けてきた。
 「疲れなんてない。まだまだいける、やりたいという気持ちは今もなお、どんどん強くなっている」

 ―これからの抱負を。
 「レスリング界の発展に向けて力を尽くし、貢献していく気持ちしかない。培った経験や体験を、少しでも多くの子どもたちに伝えていけたら」