「めご太郎をきっかけにつながった人たちと、何かイベントをしたいですね」と成田さん=横浜市の伊勢佐木町

 横浜市中区の関内駅に降り立つと、目の前に伊勢佐木町商店街。一角に立つのがイセビルだ。関東大震災後、焼け野原だった街に建てられ、築年数は90年超。横浜の地域情報誌を発行する「星羊社(せいようしゃ)」は、そのビルの4階に事務所を構える。

 編集長は青森市出身の成田希(のぞみ)さん(33)。と言っても、スタッフは成田さんと、社長兼発行人で夫の星山健太郎さん(39)だけ。たった2人で、取材から執筆、編集、営業までフル回転している。

 成田さんはもともと、出版関係の仕事に進むつもりはなかったという。青森高校を卒業後、横浜市内の私立大学に進学した。弁護士を目指し法科大学院に進んだが、司法試験の壁は厚く断念。「次に何をしようか、と考えた時、一番身近にあったのが飲み屋街でした」と振り返る。大学院で知り合った星山さんは横浜出身で、地元の酒場に詳しかった。試験勉強の合間の気分転換に一緒に飲み歩くうち「飲み屋さんに知り合いが増えていって。地元愛にあふれた人が多かったんです。そうした人を通じて、街の魅力に触れ、横浜の歴史や文化を知るようになりました」。次の道にそれらが生かせるかも、と考えた。

 2009年から横浜の小さな出版社に勤めたり、フリーライターとして活動。13年、同じように次の道を模索していた星山さんと事務所を探したところ、イセビルに空きが見つかった。

 「横浜のシンボル的なビルに入居したことが、方向性を決めたのかも」(星山さん)。同年8月に星羊社を設立し、12月15日に横浜の情報誌「はま太郎」第1号を発刊。創刊日に婚姻届を出したんです-と、照れながら明かしてくれた。

 「はま太郎」には市民酒場と呼ばれる大衆的な店や、そこを行き交う人々が魅力的につづられている。イラストは「外注する余裕がなくて」と、成田さん自ら手掛け、絶妙な味わいを醸し出す。

 昨年12月には、青森市をテーマにした「めご太郎」を刊行した。「はま太郎」同様、「店の紹介というよりは、そこで繰り広げられる人の営みにスポットを当てています」と成田さんは言う。

 「出版不況と言われますが、地元に根差した情報は地元の人が興味を持ってくれる。これからも人のつながりを大切に、丁寧な仕事をしていきたいですね」