つがる市木造の県道沿い。わら焼きの炎が見える=11日夕、読者提供
わら焼きの煙が道路を横切り視界を遮ることも=16日午後、つがる市内
収集して有効利用される「稲わらロール」が並ぶ光景も見られる一方、右奥の田んぼでは稲わらを焼く煙も上がっている=25日午前、つがる市内

 「田んぼのわら焼きについて。車の運転中、前が見えず止まらなければならなくなるほど煙がひどい。事故を起こしている車も見ました。短命県返上と言いながら、県はわら焼きの煙による健康被害をなぜ放っておくのでしょう。私は毎年、わら焼きの煙で鼻と喉をやられます。少なからず肺にも影響があると思います。青森県は農家に甘すぎる。罰則を設けるなどしなければいけないと思います。」(つがる市、40代女性)

 東奥日報紙「あなたの声から『フカボリ』取材班」に、つがる市の40代女性から「わら焼き」による煙害を訴える声が寄せられた。女性は毎年、鼻と喉を痛めており「短命県返上と言いながら、県はなぜ放っておくのか」と憤る。稲わらの畜産利用などが進み、以前に比べると大幅に減ったわら焼きだが、今なお苦情が絶えないのはなぜか。取材を進めると農家は一様に「良くない」と認識しつつ、高齢化、労働力不足などから利用に結びつけることができず、やむを得ず焼いている姿が浮かび上がった。

 16日、つがる市の稲刈りは最終盤を迎えていた。あちこちから稲わらを焼く煙が上がる。農家の声を聞くため地域を歩くと、全身煙まみれになり、道路を覆った煙で視界が遮られたことも。帰路に就いた後もきな臭さが鼻の奥に残り、スーツにしみついた臭いは翌日まで取れなかった。

 木造地区で、わら焼きをしていた男性(83)に聞くと「焼きたくはない」としながら、「稲わらを持っていく場所がない。すき込めればいいが、大きいトラクターもない。事故にならないよう、少しずつ焼いている」と申し訳なさげだ。

 同地区の別の場所で稲わらを焼いていたのも高齢者男性(72)。「5年ほどすき込んでいたが、何年もやるとわらが浮き、根が土に入っていかない。いい機械があればいいが、70歳を超えると銀行も金を貸してくれない」と苦しい胸の内を語りつつ、「煙が体に良くないのは分かっている。行政は焼くなと言うが、持っていってはくれない」と恨み節も口にした。

 一方、畑に敷いて使うために稲わらを活用しているという、スイカ・メロンを栽培している同地区の60代女性は「スイカ、メロンの農家でなければ邪魔になるから焼くのでは」と話す。

 国道101号沿いを車で走る。柏地区でも森田地区でも煙が上がっていた。それぞれ事情を聴くと「やってはいけないという思いはある」「欲しい人があれば、いくらでもあげるのだが…」。また「今年は夏場に雨が少なく土が硬いので焼きやすい」と話す人も。

 一方、稲わらを田にすき込む作業をしていた森田地区の男性(65)はわら焼きが社会問題化してから焼いていないという。「本当は焼けば簡単。最近はまた焼く人が増えてきたと感じる」と話した。

 つがる署の向中野央交通課長は「わら焼きによる視界不良で起きた事故は確認していない」とするが、この時期、市民からの苦情は多いという。同課長は「苦情があれば現場に向かう。パトロール中でも、危険な場所を見つけた場合は注意する」と話した。

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<西北地域 依然根強く/高齢化や人手不足 収集厳しく>

 昭和50年代のピークには水稲作付面積に占める割合が25%に及び、社会問題となったわら焼き。近年はすき込みによる土づくりや畜産飼料への利用が進み、年々減少する一方、特に西北地域に集中し、依然として根強く残っている。

 県によると2010年の「県稲わらの有効利用の促進及び焼却防止に関する条例」施行後、作付面積の1%台までわら焼きが激減したが、「この1%がなかなか切れない」と担当者。特に、つがる市を含むコメどころ、西北地域の18年の焼却面積は443ヘクタールと、わら焼き全体の75%を占めている。

 わら焼きがなくならないことについて県は、高齢化や労働力不足などでわらが集められないといった事情があるとし、取材内容と合致した見解を示す。県南の畜産農家らからは「稲わらがもっと欲しい」と需要があるにもかかわらず、収集の手が足りなかったり、品質にばらつきがあったりで、十分な供給に結びついていない。

 県や西北地域の市町村は稲わら有効利用推進会議などの協議機関を組織。わら焼き防止の啓発活動に加え、収集事業者育成や、販売希望者と買い取り希望者のマッチング支援などを通じ「商品としての稲わら」の流通拡大を急ぐ。

 つがる市農林水産課によると、市内で稲わらを収集する業者は市内外で30社ほどあるが、まだ足りないという。長内定彦課長補佐は「業者がいれば、焼却などせずに喜んでわらを提供すると思う」とし、収集体制の確立が、わら焼き根絶につながるとの考えだ。

 焼却に関し、現状で県条例に罰則規定はない。罰則を設ける必要性を指摘する声もあるが、廃棄物処理法で廃棄物の野焼きが原則禁止されているものの、農業を営むためにやむを得ない場合は、例外として認められる。これが、条例で罰則に踏み込めない理由にもなっているようだ。

 わら焼きや稲わらの有効利用に詳しい泉谷眞実・弘前大学農学生命科学部教授は「すき込めるところはすき込み、すき込んでも分解しないなどの問題がある場合は、回収して利用するのが基本。国産稲わらは全国的にも需要があるが、農家主体の回収では限界がある。異業種の参入を促したり、地域のボランティアを活用するなどの支援策が必要だ」と話した。

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<「健康に甚だ良くない」 医師警鐘 化学物質 防御に限界>

 健康被害が懸念される稲わら焼却時の煙に関し、県は津軽地域で大気汚染の状況を調査。2018年度の調査結果によると、西北五地域の観測地点・五所川原市では10月に夕方から夜間にかけて微小粒子状物質「PM2.5」や二酸化窒素濃度が上昇し、大気汚染が確認された。

 特にわらの燃焼過程で発生する有機化合物のベンゾ(a)ピレン、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドは発がん性物質とされる。同市内でわら焼きがあった10月の2日間は、わら焼きがなかった日と比べ、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドで2.0~1.5倍、ベンゾ(a)ピレンは10~13倍と、軒並み高い値を検出している。

 県内のPM2.5測定地は青森、弘前、八戸、五所川原市にあり、今年4月から今月14日までの値を見ても、国の環境基準を超えた日数は五所川原市が計8日間と突出、今月初めは3日連続で基準を大きく上回った。同市のほか、基準をやや超えたのは弘前市の1日(今月2日)だけだった。

 わら焼きの煙による健康への影響について、弘前大学保健管理センター所長の高梨信吾教授(呼吸器内科)は「わら焼き公害と言われる通り、健康には甚だ良くない」と即答。気管支ぜんそくなど、肺に疾患を抱える人や煙の化学物質に過敏な人は、ぜんそくの発作が増えたり、せき込んだりで、苦痛を訴えるという。

 「わら焼きの煙が目に見える状態は、PM2.5の濃度が環境基準を超えているということ。ひどい時は外出を控えたり、高性能のマスクをするなどの対応をしても防御には限界がある。秋田県のように条例で明確に禁止するなど、何とかしないといけない問題」と警鐘を鳴らした。

 秋田県は条例でわら焼きを原則禁止。焼却せずに有効利用するよう条例で定める青森県と同様、罰則規定こそないものの、青森県より、一歩踏み込んだ内容となっている。

PM2.5 大気中に漂い、人が吸うと呼吸器などに影響がある微小粒子状物質。直径2.5マイクロメートル(1マイクロメートルは千分の1ミリメートル)以下で、髪の毛の太さの30分の1ほど。肺の奥深くまで入りやすく、循環器系への悪影響も指摘される。自動車の排ガスや工場の煙などに含まれ、環境省は2018年、稲わらなどの野焼きが濃度上昇に直接影響すると初めて都道府県に通知した。国は環境基準で「健康維持のため望ましい濃度の水準」を、大気1立方メートル当たりの1年平均値で15マイクログラム以下かつ1日平均値が同35マイクログラム以下としている。