創業40年の「可否屋 葡瑠満」。店主の宮本さんは「お客が雰囲気も楽しめる店にしたい」と話す=弘前市下白銀町
46年喫茶店を営む「方舟」の店主竹岸さん。「たまに若い人も『古い店が落ち着く』と言って来てくれる」とほほえむ=八戸市鳥屋部町
天井が高く、開放感のある「星乃珈琲店 八戸城下店」。4月の県内初出店から人気が続いている=八戸市沼館

▼居心地良さ求め変化も
 香ばしい豆のにおい、コポコポと湯が沸くサイホン、心地よい音楽-。昔ながらの喫茶店が減っている青森県内でも、時代の変化やニーズに向き合いながら、熱心な常連客に支えられて長く続いている店がある。

 弘前市下白銀町の「可否(コーヒー)屋 葡瑠満(ぶるまん)」(1979年創業)は、同市一番町から10年前に弘前城の東門前に移転。豆の量を通常の3倍使う自慢のブレンドコーヒーはもちろん、ここ数年は自家製ケーキを20種類に増やすなどスイーツにも力を注ぎ、常連客や観光客らに愛されている。

 店主宮本孝紀さん(63)は「自分たちで食べておいしいものを出そうと、きっちり手を掛けて仕事をしているだけ。そうしないと淘汰(とうた)される時代」と話す。自然光を取り入れ明るくなった現在の店舗は禁煙。新たに設けた個室は、予約があれば子連れ客の来店にも対応できるなど、時代に合わせた「居心地の良さ」を追求している。

 県内出店が相次ぐ大手コーヒーチェーンについては「個人的には脅威というより、コーヒー好きを増やしてくれるプラスの存在。若い人たちがコーヒーに親しんで、物足りなくなったら来てくれればいいかな」との見方だ。

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 青森市新町。夜になると、にぎやかなカラオケの音が漏れてくる喫茶店がある。葡瑠満と同じ79年創業の「グルッペ」もまた、古くからの常連客にとって、なくてはならない店だ。

 マスターの渋谷正善さん(72)は、かつて歌手になる夢をかなえるため上京。「津軽八郎」の名でレコードデビューを果たしたが、昭和40年代に青森に戻った。新町通りにあった喫茶店「王朝」で店長を務めた後、独立して今の店を開いた。

 店名のグルッペとは「仲間」。定年退職した人たちが集まる場所にと、カラオケや楽器演奏を楽しむ会を毎月続け、十数年になる。「ごく当たり前に普通のことをやってきただけ。喫茶店の経営は厳しいけど、来てくれるお客さんそのものがお金には代えられない財産だと感じる」と言う。

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 八戸市鳥屋部町にある「方舟(はこぶね)」。店主の竹岸紀子さん(79)は前身の「砂時計」から数えて46年喫茶店を営む。以前は同市六日町のビルの一角で窓のない店だったが、昭和の終わりごろ、現在の路面店に移転。客が気軽に入れるように外から中が見える店構えにした。

 「喫茶店でコーヒーと言えば、時間と一緒に楽しむゆとりの飲み物だったのに…。今は世の中の時間の流れが速くなってしまって、ついていくのが大変。ランチは(最後の)コーヒーまで素早く出さないと駄目なの」。そう言って、すかさずサイホンでコーヒーをいれてくれた。

 「もうずっと腰が痛くて」と竹岸さん。それでも「常連さんが『大事な居場所だからやめないで』と言ってくれるのが活力。もうちょっと、もうちょっと、と思って頑張っている」。明るい声が店内に響いた。

▼人気のチェーン店続々
 「昔は、買ったばかりの本を家に帰るまで待ちきれなくて、その辺の喫茶店に入って読む人が多かった。今の人たちはしゃれたチェーン店に行って、本ではなく仕事のためのパソコンを開いている」

 八戸市で古い喫茶店を営む店主がつぶやいた。実際のところ、県内では1994年の「ドトール」を最初に、「タリーズ」「スターバックス(スタバ)」と大手コーヒーチェーンが相次ぎ出店。多くの来店客の中、ノートパソコンなどで仕事をする人の姿は珍しい光景ではなくなった。

 昔ながらの喫茶店が減る一方、集客力の違いを見せるチェーン店の魅力とは何か。青森、弘前、八戸の3市で、普段よく店を利用するという会社員らに聞いてみた。

 「チェーンのカフェは広々として入りやすい。手軽に食事もできて、長居できる。コーヒーは2杯目半額なのもうれしい」(弘前市の男子大学生)

 「昔ながらの小さい喫茶店でパソコンを開くのは、雰囲気を壊すようで申し訳ない。大手チェーンは電源席もあって、気兼ねなく仕事に使える」(青森市の35歳会社員女性)

 今やコンビニでも、コーヒー豆を使い、ひきたて、入れたてのコーヒーが飲める時代。大手チェーンを選ぶ理由には、安定した品質だけでなく、店内の「居心地の良さ」を多く挙げる声が多かった。

 今年4月、八戸市沼館に県内初の「星乃珈琲店」がオープン。6月には青森市のイトーヨーカドーに「コメダ珈琲店」が初出店した。一度出店したものの今はない店もあるが、8月末現在、県内のコーヒーチェーン店はドトール、タリーズ、スタバ、星乃、コメダで計約30店舗に増えた。

 ドトール、タリーズ、スタバはカップを手持ちでテークアウトすることも多く、客がレジで商品を購入するセルフスタイルだが、今年初出店の星乃、コメダは席で注文する喫茶店スタイル。食事メニューは豊富で、ファミリーレストランに近い強みがある。

 「星乃珈琲のコーヒーが一番好き。青森市の老舗喫茶店の味と似ている。シックな内装で昔ながらの喫茶店の雰囲気も味わえる」と八戸市の40代女性。高いブランド力を誇るコーヒーチェーン店の人気はとどまる気配がない。