浅草のシンボル・雷門の前に立つ沼沢さん。「人力車だから見える風景」を追い求めている

 丸刈りに、きびきびした所作。威勢のいい、よく通る声は、まるで生粋の江戸っ子だ。五戸町(旧倉石村)出身の沼沢明俊さん(38)=千葉市在住=は、東京・浅草界隈(かいわい)で人力車を引いて十余年。ベテランとなった今も、お客さんが喜ぶおもてなしを-といちずな気持ちを忘れない。

 経歴はユニークだ。八戸工大二高を卒業後、海上自衛官となったが3年で退職。東京のタレント養成所に入り、漫才コンビを組んでスターになる夢を追いかけた。

 芸人として舞台に上がっていたが、その収入だけでは生活できない。「せっかくなら芸に結びつくバイトがしたい」と、求人雑誌で見つけたのが人力車夫の仕事だった。

 「最初は全身筋肉痛。食欲もなくなりました」。時速10キロ前後で走り、停止と発進を繰り返す。しかも、ずっとしゃべりっぱなし。「一番鍛えられたのは心肺能力ですね」と胸元をさする。

 もともと研究熱心な性格。街の歴史を頭にたたき込み、新しい店や観光スポットのチェックも欠かさない。お客の年代や性別はもちろん、人力車に乗ったことがあるかないかでも話題を変える。

 お笑い芸人の活動に区切りをつけ、人力車の仕事に専念し始めたのが2007年。「自分にお笑いのセンスがないと分かり、スパッとやめた。これからは人力車に専念しようと」。自由に一からサービスを組み立てたい-と12年12月、自ら会社「花鳥風月」を興して独立した。

 浅草のほか、上野、両国、鎌倉でも車を引き、三重県の伊勢に出張することも。アイドルグループ「AKB48」の曲「ハイテンション」のミュージックビデオにも出演し、人力車にメンバーを乗せコミカルな笑顔を見せている。

 ちょうちんを手に新郎新婦を先導したり、口上を述べたりする婚礼のサービスも展開する。「日本の伝統的な『嫁入り』の良さを伝えられれば」と熱く語る。

 年齢を重ね、体力的な衰えも感じるという。重労働が身にこたえても、ガイドの質は落とさない。「年をとったらとったなりの言葉遣い、身のこなしができ、若さとは違う魅力があるはず。案内した街をお客さんが好きになって、また来たいと思ってもらえたら一番うれしいです」