「テーブル一つあればどこでも出張します」と話す溝江さん。この日は書店「東京天狼院」がバーに早変わりした=東京・池袋

 ある夏の夜、東京・池袋の書店の一角。青森市出身の溝江雅美さん(37)=埼玉県在住=がカクテル用のリキュールやシェーカー、グラスを次々と取り出した。

 「カクテルの世界を楽しみながら自由に遊んでいって」と参加者約10人に呼び掛け、書店主催のお酒のミニ講座が始まった。それぞれの好みを聞いてオリジナルカクテルを作ったり、お酒にまつわる質問に答えたり。参加者は初対面同士ながら、溝江さんを介して会話を弾ませ、夜が更けるまでお酒談議を交わした。

 「お酒はあくまでツール。お酒を通じて楽しい時間、空間をつくり、人のつながりをつくるのがぼくの仕事ですから」

 名刺には「日本一ご縁を結ぶ出張バーテンダー」とある。「最初は何となくの思いつきでした」と笑いながら振り返る。

 青森北高を卒業後、上京。スーパーに勤め、総菜売り場で調理の楽しさに目覚めた。その後、ダイニングバーに勤務。調理場担当だったが、人手が足りない時にホールに駆り出された。

 人見知りだというが、「うまく話せなくても話を聞くことはできる」とバーカウンターで聞き役に徹した。次第に話が蓄積され、接客に生かせるように。すると、自分を目当てにカウンターが埋まるようになった。

 あるとき、風邪で寝込んでいて「こういう時、お酒をつくりに来てくれる人がいればいいな」と思った。2010年のことだ。

 スーツケース一つにリキュールのミニボトル25本を入れ、全国どこでも出向くスタイルを考えた。ホームパーティーや結婚式に呼ばれたり、高齢者施設のお祭りではノンアルコールカクテルを提供したり。企業の懇親会では、社長の名前のカクテルを考案して盛り上げた。「面白かったのは、出産後間もないママさんの会。授乳中だからお酒を飲めないし、外出もままならないママさんたちに、きれいな色のノンアルコールカクテルをつくったらすごく喜ばれました」

 今は自ら講座を企画するなど、仕事の幅を広げている。「バーテンダーの基本は、ティーチング(教える)、コーチング(引き出す)、コンサルティング(助言・支援する)。こうした力や人脈を生かし、多くの人の力になりたい。青森の活性化のためにも何かしたいですね」