工場で制作中のオブジェの前に立つ吉澤広寿さん=埼玉県川口市

 半世紀前、吉永小百合主演の映画「キューポラのある街」の舞台となった埼玉県川口市。ものづくりの街として、今も多くの町工場が操業している。

 同市に三つの工場を構える立体造形物制作会社「ラッキーワイド」は、弘前市出身の造形作家・吉澤広寿さん(61)が創業した。現代美術の第一人者・村上隆さんのフィギュアを請け負っており、2010年にフランスのベルサイユ宮殿で開かれた同氏の個展にも全面的に参加した。ほかにも、日本を代表するテーマパーク内のオブジェ、都心の有名デパートの内装などを手掛けている。

 工場内には大型の3Dプリンターや切削工具があり、成型、修正、塗装、乾燥などが並行して行われている。「原画は平面。作者のイメージを大切に、こちらの解釈を加えて立体化していく。何度も電話やメールでやりとりしながら、理想の形に近づけるんです」

 従業員は35人。若手が多く、生き生きとした表情で手を動かしている。壁に整然と並ぶ何百もの塗料や溶剤。「汚れる仕事だから、清掃や整頓をきちんとし、従業員の健康管理にも気を付けている」という。

 吉澤さんは日本大学芸術学部に入学する前から、彫刻家・柳原義達氏に師事した。フランス留学中に頸椎(けいつい)を損傷して帰国。リハビリをしながら創作を続けた。1982年、川口市に工房を構え、テレビ番組の舞台美術などを造った。

 バブル経済崩壊による取引先倒産、自身のくも膜下出血など、道のりは平たんではなかった。「一生懸命仕事を続けていると、旧知の人から注文が入ったり、温かい人間関係に救われるんですよね」

 近くの小学校の依頼で、定期的に工場見学を引き受ける。自分を育ててくれた街への恩返し。2011年には「川口の匠(たくみ)」として市から表彰された。

 母は書家の吉澤秀香さん(84)。祖父は刀匠の二唐國俊さん(故人)。自分の中に流れる職人の血を「頑固でギブアップできない。でも、非常に柔らかい部分もある。『東北人は暗い』なんて言う人もいますが、実際はそんなことない。明るいですよね」と笑いながら説明した。