「ウィーンでは音楽はもちろん、美術館や教会など街全体を楽しみました」と語る三戸さん

 「他の人より回り道をしたかもしれない。でも、大きな流れのような日々の中で経験した一つ一つが、私の音楽に反映されている」

 青森市出身の声楽家・三戸大久(ひろひさ)さん(38)=練馬区在住=は、1年間のウィーン留学(文化庁海外研修員)から3月に帰国し、オペラやミュージカルの舞台でバリトンの美声を披露している。

 すべての始まりは中学校の修学旅行だった。都内で見た劇団四季のミュージカル「オペラ座の怪人」に圧倒された。その後も劇団四季の青森公演を見る機会があり、高2で音大進学を決意した。

 ピアノや楽典(音楽の規則)、聴音(音の聞き分け)、視唱(初見の譜面で歌う)などを猛勉強。現役合格はならなかったが、都内で新聞配達をしながら予備校に通い、武蔵野音楽大学に入学する。

 卒業後、宮本亜門演出、佐渡裕指揮のミュージカルで、プロ初舞台を踏む。この公演では、中学時代に見た「オペラ座の怪人」の出演者とも共演でき、二重の感激を味わった。

 幸運なスタートを切ったが、状況に甘えることなく、さらなる高みを目指す。二期会のオペラ研修所に入所したのだ。予科から本科、マスターコースへと進級すら難しい中、朝晩のアルバイトをこなしつつ3年間で修了。2005年、二期会のモーツァルト「魔笛」で武士を演じたのが、オペラ歌手としてのソロデビューとなった。

 現在はソロとして新国立劇場などの舞台に立ち、都内の学校で声楽を教える。青森第九の会、青森市民オペラなど本県での活動も多い。「郷里の子どもたちが本物の芸術に触れる機会を増やしたい」。かつての自分が音楽の魔力に取り付かれたように、新しい世代が才能に目覚め、歩み出す日を待っている。

ウィーンで感じた故郷

 ウィーンで暮らした1年間、青森県との共通点を多々感じた。「割とこぢんまりした街並みで自然がたくさんある。東京と違って四季がはっきりしていますね」。冬は寒く雪も積もる。走る除雪車を見る度に、故郷を思い出したとか。「ウィーンの人は春を待ちわびる思いが強いんでしょうね。ドイツ歌曲には春をテーマにした曲も多いんです」