たたら製法で鋼づくりにいそしむ佐藤さん。灼熱(しゃくねつ)の炎、火花との戦いだ

 東京都八王子市の郊外。本県の景色と見まごうばかりの緑と畑と清流に囲まれた集落の古民家から、鋼(はがね)を鍛える金づちのにぶい音が聞こえる。真っ赤に燃えた鉄が、火花を吐き散らす。大鰐町出身の佐藤重利(しげとし)=本名・利美=さん(69)は、都内でも数少なくなった刀鍛冶の一人だ。

 「都内でたたら製法から刀を作るのは私ぐらい」。控えめながらも誇らしげに話す佐藤さん。週末、この鍛錬所にこもって制作に励む。

 文化庁認定の名の知れた刀鍛冶だが、「刀作りはあくまで趣味」と言い切る。本業は学校教材を販売する地元企業の経営者だ。

 鍛冶の世界に出合ったのは30年前。教材の彫刻刀やのみなど刃物の良し悪しが分からなかったのがきっかけという。新潟の著名な刃物鍛冶・岩崎重義氏の元を訪ね、鍛冶の道に魅せられた。「覚えるには自分で作ってみるのが一番」。毎週末、新潟まで車を飛ばし、鍛冶仕事にいそしむようになった。39歳の遅いスタートだった。

 並行して都内の工学院大学の専門学校に入学し、2年間みっちりと冶金(やきん)学を学んだ。「科学的に解明できないと納得できない性分」と佐藤さん。43歳のころからは刀作りにも目覚め、岐阜の名人、故・大野兼正氏から教えを受けてきた。

 刀作りでこだわるのは、単なる美術品ではなく機能性を追求すること。かぶとも割ることができる、硬くて“粘り”も併せ持った刃が理想という。刃の部位によって金属の性質を変える手間が、国内外に多くのファンを抱える大きな理由だ。

 最近、長年の目標を達成した。戦国時代から地元・八王子に伝わり、途切れてしまった「下原刀(したはらとう)」の再現だ。10年の歳月がかかったが、「あっという間」(佐藤さん)。9月に市内で始まる展示会を楽しみにしている。

 佐藤さんを刀作りに向かわせる動機とは何か。「自分の生きた証しが欲しい。100年後、200年後に『平成の刀鍛冶はこの程度か』と言われるのは嫌。いい物を作れば誰かが何百年も大事にしてくれる。だから頑張っているんです。」

欠かせぬ県産わら灰

 鋼作りに欠かせないのが「わら灰」と呼ばれる稲わらの炭。大鰐町で農業を営む兄の金美さん(75)が作り、送ってくれる。本県農業が佐藤さんの刀作りを下支えしている。本県の西海岸では古代のたたら炉の跡がいくつか見つかっている。佐藤さんは「砂鉄や炉を作る粘土をどこから調達したのか、自分の目で調べたい」と目を輝かせた。