温泉の女将からIT企業社員に転身した丸井さん=1月29日、東京都港区

 温泉の女将(おかみ)からIT企業へ。十和田市出身の丸井香織さん(32)=東京都渋谷区=は2018年春まで市内の十和田温泉で長く女将を務めていたが、細っていく地元の将来を憂えて、一念発起。上京し、12月から、地方創生を掲げるIT企業の社員へ転身した。

 丸井さんが勤務するLASSIC(ラシック)は都内にも事務所を構えるが、本社は鳥取市。システムエンジニア(SE)の帰郷や、地方での起業を支援する。

 IT企業が集積する都会から離れた地方で暮らしながら、インターネットなどを使って仕事をするリモートワーク(遠隔勤務)の実現を手助けする。丸井さんはそのプロジェクトの発足メンバーとして、都内を中心に、企業やSEの参画を募る営業活動に奔走する。

 友人ら自分の周囲を含め「本当は地元に戻りたいと言う人は多い」と丸井さん。年収や仕事のやりがいの低下といった不安は、リモートワークなら解消できると強調する。

 丸井さんが転身を決めた背景には、温泉の女将時代に募った高齢社会への危機感がある。常連客だった老夫婦がある日を境に、ぱったりと姿を見せなくなった。後から「夫が病気で車を運転できなくなったから」と聞いた。

 来店が途絶えた高齢の常連客が実は亡くなっていた-など、寂しい話を耳にするたび「十和田に住みたいという人を増やさないと新たなお客さんは増えないし、街も良くならない」との思いが強まった。

 県議の父・裕さん(62)の選挙活動を手伝って市内を巡った時も、地域によっては人口減少が著しく進んでいる現実を目の当たりにした。「これから先どうなっていくんだろう」と、衰退への危機感も抱いた。

 地域貢献のあり方を考えながら地元で働いた経験が、むしろ上京の決意を後押しした。自らの考えに近く、地方創生を理念とする現在の会社に転職。リモートワークの普及が、いずれは十和田へのUターン者が増えたり、新たな住民を獲得する一手になると信じる。

 「東京は人が多い分だけチャンスも多く、成長させてもらっている」と丸井さん。挑戦の日々に、胸をときめかせている。