青森市内で先週、この夏初めてセミの声を聞いた。「ヂィー」と機械音のように長く鳴く。姿は見えず、ネット上の動画投稿サイトで声を調べた。やはりニイニイゼミだった。<閑(しづか)さや岩にしみ入る蝉の声>。松尾芭蕉が「奥の細道」の旅に出て山形の立石寺で詠んだのは、このセミとされる。

 昭和初期に「蝉の声」論争があった。歌人の斎藤茂吉がアブラゼミにこだわったのに対し、独文学者の小宮豊隆はニイニイゼミだと反論した。芭蕉が立石寺を訪れたのは新暦7月13日。現地調査の結果、確認されたセミの大半がニイニイゼミと分かり、茂吉は持論を取り下げた。

 茂吉は、アブラゼミが群れをなして「ジリジリジリ」とにぎやかに鳴く中、芭蕉が「閑さ」を感じ取ったと受け止めたのかもしれない。ニイニイゼミの声は小さすぎると。当時は動画もない。蝉時雨を体感しなければ得られない解釈だろう。

 子どもたちの理科離れが指摘されて久しい。本年度の全国学力テストの結果が気になる。小学理科でチョウやトンボなど昆虫の食べ物に基づく出題があった。知識を日常生活に応用して理解するのが苦手な傾向が見えたそうだ。

 子どもたちは昆虫に接しているだろうか。さまざまな知識はネット上でも得られる。自然や科学への理解を深めるには調べ、その場に行き、確かめ、考える、実体験がものを言うのだが。