安倍晋三元首相の突然の死去により、自民党内で菅義偉前首相の動向に注目が集まっている。首相経験者として存在感を保ち、公明党とのパイプは太い。一部に次の内閣改造・自民党役員人事での要職起用説も流れる。ただ岸田文雄首相とは距離を置いており、菅氏周辺は非主流派にとどまることへの焦りも見せる。

 8日昼。菅氏は参院選応援で沖縄入りするため羽田空港に向かう車中で、安倍氏銃撃の一報を聞いた。すぐに出張を取りやめて新幹線に飛び乗ると、安倍氏が倒れた奈良へ向かった。「同じ空気を吸いたかった。そばにいてあげたかった」。息を引き取った安倍氏と対面。感謝の気持ちを直接伝えた。

 岸田政権内で首相経験者の安倍、菅両氏は重みのある存在だった。菅氏は安倍氏の発信力には及ばないが、無派閥を中心に菅氏を慕う議員は数十人規模に上る。参院選では応援弁士として人気を集め、健在ぶりをアピールした。19日には来日中の朴振(パク・チン)韓国外相と会談。元慰安婦問題を巡る2015年の日韓合意の履行を求めた。

 そんな菅氏に、9月までに行われる内閣改造・党役員人事で副総理などへの起用案が取り沙汰される。ポイントは公明党の支持母体・創価学会と築いてきた信頼関係だ。首相や側近は公明とのルートが弱く、これまでも参院選の相互推薦、物価高対策などぎくしゃくした経緯がある。菅氏を政権中枢に取り込めば補強でき、挙党体制も構築できるとの発想だ。

 首相は参院選で大勝を収め、内閣支持率は比較的安定する。一方で菅氏は昨年9月の党総裁選で河野太郎氏を推し、岸田政権下では非主流派。参院選で関係が近い無派閥2議員が落選した。菅系議員が発信力強化を期待する菅氏の勉強会構想は、銃撃事件もあり当面先送りされる方向だ。

 周辺は「このまま岸田政権が安定すれば、菅グループはずっと主流派に入れないかもしれない」と先行きを懸念。菅氏要職起用への期待感を口にする。

 とはいえ菅氏は首相と「反りが合わない」(周辺)のが本音だ。首相に近い党幹部も、内閣や党の要に菅氏を置く案には冷ややかな視線を送る。「菅氏の影響力は限定的だ。人事で特別に配慮することはないだろう」