参院選で自民党は改選55議席を上回り、単独で改選過半数(63議席)を確保し、大勝した。与党は目標とした非改選(70議席)を含む定数248の過半数に達する55議席を上回る76議席以上に達した。

 衆院解散がなければ2025年まで大型の国政選挙はない。政権の安定基盤を固めた岸田文雄首相は、解散の時機を探りながら内外の課題に取り組むことになろう。首相の責任が一層重くなったとも言える。

 首相は選挙大勝を受けた記者会見で、新型コロナとロシアのウクライナ侵攻、物価高騰を挙げて「数十年に1度あるかないかの戦後最大級の難局だ」と指摘し、「有事の政権運営に当たる」と強調。参院選で公約に掲げた憲法改正や、安全保障環境の変化を踏まえた防衛力の抜本的強化に取り組む考えを表明した。

 しかし、改憲などが参院選で有権者が政治に託した課題だっただろうか。共同通信社のトレンド調査では、有権者が重視したのは物価高騰対策や社会保障政策だった。政策の優先順位を間違えてはならない。

 地方においては、人口減少や地域社会の衰退などの課題をめぐり、与野党が現実味のある議論を交わしただろうか。有権者に十分な判断材料を示せたかどうか疑問が残ることも付け加えておきたい。

 首相は新規感染者が増えているコロナ対策では、感染拡大防止と経済社会活動の両立を図る考えを示しただけだ。物価高騰対策では、予備費を活用するとして新たな補正予算の編成は否定した。

 その一方で首相が力を込めたのが、改憲と防衛力の増強だ。首相は、選挙遊説中に銃撃された安倍晋三元首相の死去に触れて「思いを受け継ぎ、拉致問題や改憲に取り組む」と強調した。

 確かに参院選では、9条への自衛隊明記や大規模災害時の緊急事態条項創設を公約に掲げた自民と日本維新の会が議席を増やした。公明、国民民主両党を加えた「改憲勢力」は改憲の国会発議に必要な「総議員の3分の2以上」の議席を占め、衆参両院で発議が可能な議席を制した。

 一方、自民の9条改正案に反対を掲げた立憲民主党は敗北した。その中にあって本県選挙区では、現職の田名部匡代氏が、自民党新人の齊藤直飛人氏らを退けて再選を果たした意義は小さくない。

 首相は会見で、自民が条文イメージをまとめている9条など4項目の改憲案について「できるだけ早く発議に至る取り組みを進めていく」と述べた。

 だが「改憲勢力」と言っても、各党の関心は同じではない。公明は新しい理念などの「加憲」を主張し、9条への自衛隊明記案には「検討を進める」と賛否を避けている。重要なのは国民の理解が得られる改憲原案を作り上げられるかどうかだ。

 防衛力に関しても、首相は「5年以内に抜本的に強化する」と表明。相手国の領域内を攻撃できる「反撃能力」の保有も含めた検討を表明した。安保政策の基本である「専守防衛」からの逸脱が指摘される議論だ。

 首相は会見で、政権運営の基盤は「国民の信頼と共感」だと改めて強調、「聞く力」もアピールした。改憲や安保政策などは国の根幹に関わる課題だ。拙速ではなく、国民の理解を得る丁寧な熟議を重ねていくべきだ。