「青森と沖縄の味を東京の人に知ってもらいたい」と藤林さん。外壁にはさらに大きな看板がついている=東京都足立区

 東京都足立区の綾瀬駅からバスで20分弱。「保木間2丁目」のバス停から少し歩くと、「居酒屋あいや」の大きな看板が目に飛び込んでくる。アットホームな雰囲気のその店は、青森市出身の藤林恭兵さん(30)=同区在住=が今月1日開店した。

 藤林さんには耳の聞こえない障害がある。

 子どものころ、祖父母の家で食べる昔ながらの家庭料理が好きだった。ネマガリダケの煮物や山菜のおひたしといった素朴な料理が「味の原点」だという。

 青森聾学校高等部在学時、調理師免許を取得できる聾学校専攻科が全国で唯一、都立葛飾ろう学校にあると知った。「料理人になろう」と決意して進学。2年間学んで免許を取った。

 赤坂の大型ホテルに就職し、シェフとして10年間、宴会料理やレストラン部門などを担当した。

 上司の指示が伝わっていないといった意思疎通のトラブルはたまにあったが、「料理に関しては問題なかった」。揚げ物の揚げ上がりは、食材の色の変化や油に浮かぶ泡の大きさで見極めた。オーブン使用時は「チーン」の音が聞こえないため、匂いに気をつけながら時々目で確かめ、気付かなければ周囲が教えてくれた。聴覚以外の感覚をフルに使って仕事してきた。

 独立のきっかけは、妻文野(ふみの)さん(42)との間に冬夏(ふゆか)ちゃん(1)が生まれたこと。通勤せずに、育児を一緒にできる環境を考えた。今年7月、行きつけの居酒屋のおかみさんから店を辞めると聞かされ、バトンタッチを受けることにした。

 コンセプトは、自身の出身地である青森と、文野さんの両親が生まれた沖縄それぞれの家庭料理が味わえる店。看板メニューは、青森の「生姜(しょうが)味噌(みそ)おでん」と、沖縄の「そうめんチャンプルー」だ。沖縄料理は親戚宅でごちそうになった味を再現している。

 「聴覚障害者だけが集まる店ではなく、いろいろな人が集まり、楽しく過ごせる場所にしたい」という。「スマートフォンで文字を書いたり、いろいろな方法でコミュニケーションできますから」。ある女性客とは、口をはっきり大きく開けて話してくれたことで、文野さんの手話通訳がなくてもやりとりできた。

 「自分が表に出ることで、耳が聞こえなくても店を持つことができることを後輩たちにも知ってもらいたい」。「不安と楽しみがまだ半々」としながらも、明るい笑顔を見せた。

 同店は午後5時半~10時半(オーダーストップ)。水曜・日曜休み。問い合わせはメール(izakaya-aiya@docomo.ne.jp)で。