棟方志功がまだ有名になる前だと思うが、今で言うむつ市脇野沢でねぶたを作ったことがあるそうだ。青森ねぶたをこよなく愛した人だが、陸奥湾の向こうまで作りに行くとはよほどである。題材は、御所五郎丸の古だぬき退治。地元でほめられたらしい。ここでねぶたを作るのはいいものだなと思った-という。

 むつ市大畑町で1972年に講演した際の記録に、そんな話が残っている。ねぶたは「人間の魂をあらゆる面で喜ばせ、歓喜の絶頂にまで達するもの」と熱い言葉が続く。「ああいう世界が県全体に巡ってきますと、何か、青森全体の力が日本に出てくると思います」

 弘前ねぷた、青森ねぶた、五所川原立佞武多(たちねぷた)が8月27、28日、弘前市でそろい踏みと聞いて志功の言葉を思い出した。「青森の力」のほか、北海道斜里町、群馬県太田市からもねぷたが参加するというから、泉下で大喜びしているのではないか。

 講演でこうも語った。ねぶたを見送る時、「次第に遠くなっていく様を眺めおもえば、あれ程不思議な程寂しいものはない」

 青森市と脇野沢、佐井村を結ぶ高速旅客船の運航会社が、来年3月末で航路を廃止すると決めた。航路は71年の開設。講演と同時代だ。志功が脇野沢に行ったのは講演の何十年も昔で、陸路よりも海路が便利だった時代ではないか。その海の道を今たどってみたくなった。