国連の安全保障理事会で拒否権を行使した常任理事国が、総会でその理由を説明する新制度が始まった。この制度は5常任理事国の壁で長年実現していない安保理改革の一環として導入された。

 常任理事国だけに決議案を葬る特権を認める拒否権は、国際社会の協調行動の障害で安保理の機能不全の象徴である。説明を求めることで行使が減るとは望めないが、安保理審議の透明化に貢献することから歓迎したい。

 常任理事国による総会説明は任意だが、拒否権行使は国際社会にとって重大な行為だから必ず説明してほしい。また将来の抜本的な安保理改革につなげるべきだ。

 日本は来年から非常任理事国となる。世界最多である12回目で、安保理の本来任務である国際平和の維持や安保理改革に向け意欲的に取り組んでほしい。

 新制度が4月にできてから最初に拒否権で否決されたのは、北朝鮮のミサイル実験に制裁を科す米国主導の決議案だった。8日の総会では中国とロシアが、制裁で問題は解決しないと拒否権行使を正当化した。これに対して日本や米国は「不十分な説明」などと反論した。北朝鮮はミサイル実験を「国連憲章が定める自衛権の行使」と説明した。

 これらはこれまでの説明の繰り返しだが、出口のない北朝鮮問題を浮き彫りにし、新たな策を国際社会が考える必要性を認識させた。国連安保理の行動では核ミサイル開発を放棄させるのは難しいと思わせる結果だ。

 一方でこの制度の創設には80カ国以上が共同提案国となり、8日の総会では70カ国以上が発言を求めた。各国の発言は拒否権の是非のほか核ミサイル開発の問題点を指摘し、関心の高さを物語った。

 安保理の15理事国に限られ、特に5常任理事国が牛耳ってきた議論が、総会に広がった形だ。新制度創設を主導したリヒテンシュタインの国連大使は「国連の歴史の新章が始まった」と評価した。

 国連安保理での米国と中国・ロシアの対立はここ数年激しさを増している。2月に始まったウクライナ侵攻の非難決議案にロシアは拒否権を行使し、安保理が戦争停止に向けて動けない現実に失望が広がっている。シリア内戦でもロシアの拒否権行使があり、パレスチナ問題ではイスラエルを非難する決議案に米国が拒否権を行使した。

 拒否権行使は1990~99年は9件なのに、2000~09年は14件、10~19年は22件に上る。冷戦中の米ソ対立が終わり一時は減ったが、米中、米ロの対立の深まりに比例して増えてきている。

 拒否権の壁に風穴をあけたいというリヒテンシュタインなど小国の意志が新制度の推進力になった。安保理決議は国連加盟国に一定の拘束力を持ちながら、その議論に参加できないのは不合理という思いだ。拒否権行使に少しでも歯止めをかけたいという狙いも持つ。

 77年前にできた国連は世界の現状を反映していない。安保理改革は、日本がインドなど4カ国グループで常任理事国入りを目指してきた。岸田文雄首相も改革の意欲を強調しているが、実現の見通しは立っていない。

 拒否権行使の抑制には米国と中国・ロシアの対立緩和が必要だ。常任理事国は世界の平和に特別な責任を持っていることを肝に銘じてほしい。