「2番ホームより、15時40分発、泊行き、発車いたします」というアナウンスの後、ジリリリリとベルが鳴る。懐かしい響きに、昭和の時代へ発車するような気分になった。むつ市にある下北交通のむつバスターミナルがきょう、営業を終了する。半世紀にわたり、地域の生活や観光を支えてきた本州最北のバスターミナルである。

 むつで暮らした経験があるので、名残惜しくて週末に青森から訪ねた。同じ思いなのだろう、カメラやスマホを手にした人たちが入れ代わり立ち代わりやってきて、発車の光景を見守った。「寂しいね」。そんな声も聞こえてきた。

 八戸市出身の作家、三浦哲郎さんの小説「海峡」に、「ターミナル行きのバス」の場面がある。佐井村から乗り合わせた女性の1人が携えた紙袋に、真っ赤な風車が2本。時折、窓から吹き込む風で勢いよく回る。恐山に向かう乗客なのだろう。

 三浦さんにとっても下北の旅は、自分がまだ小さい頃に、青函連絡船から身を投げた次姉を供養する巡拝の旅だった。35年前に発表した作品である。このバスターミナルで、さまざまな人生が交錯した。

 建物の正面に小型の扇ネブタが飾ってあった。側面に「準備しておこう。チャンスはいつか訪れるものだ」とある。しばし足が止まった。偉人の言葉らしい。人通りが少なくなった街の、願いと決意のように思えた。