オトコ映画論#122

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スーザン・ジョンソン監督作品『マイ・プレシャス・リスト』(2017)
×エドヴァルド・グリーグ『ペール・ギュント』

ちょっとしたJ. D. サリンジャーがブームになっている。映画の世界で、ジェローム・デイヴィッド・サリンジャーに関する映画がいっぱい出ているのだ。

 

いま公開中のジェームズ・スティーヴン・サドウィズ監督作品『ライ麦畑で出会ったら』(原題Coming Through the Rye)は、名著『ライ麦畑でつかまえて』を舞台化する話。私立学校に通う主人公は、ニューハンプシャー州に出かけて、実際に隠遁生活を送っていたサリンジャー氏と会って、彼から直接に許可をもらおうとする。『アメリカン・ビューティ』(原題American Beauty) や『アダプテーション』(原題Adaptation)のクリス・クーパーがJ. D. サリンジャーを演じている。

そしてこれまた公開中の2017年のスーザン・ジョンソン監督作品『マイ・プレシャス・リスト』(原題Carrie PIlby)には、サリンジャーのもうひとつの名著『フラニーとゾーイー』の初版本が登場している。『フラニーとゾーイー』は、2009年の『(500)日のサマー』の女優、ゾーイー・デシャネルのファーストネームの由来になっているのだ。

『フラニーとゾーイー』は、1955年1月29日にサリンジャーが雑誌『ザ・ニューヨーカー』に発表した『フラニー』(原題Franny)と、1957年5月4日に同誌に発表した『ゾーイー』(原題Zooey)という連作2編と小説をひとつにまとめたもの。1961年9月14日刊行。

内容は、グラース家の末っ子である女子大生のフラニーと、そのすぐ上の兄で俳優のゾーイーをめぐる、1955年11月のある土曜日の午前中から、翌週の月曜日にかけての物語である。

日本語版は1968年に刊行されたので、僕も高校生のときに熱中して読んだ。当時は角川文庫か講談社文庫が、『フラニーとズーイ』というタイトルだったかもしれない。こんなところから、ゾーイー・デシャネルをズーイ・デシャネルと書く風習が生まれたのだ(笑)。

さて、『マイ・プレシャス・リスト』は、天才だけど、コミュニケーション能力に問題のあるヒロインが、セラピストから渡された「幸せになるためのリスト」を実行することで、心の成長を遂げていくさまがつづられる。多くの女性から共感を得たカレン・リスナーの小説を『マイ・インターン』のプロデューサーが映画化したヒューマンドラマだ。

ニューヨークのマンハッタンで暮らすキャリー・ピルビー(ベル・パウリー)。ハーバード大学を飛び級で卒業したIQ185の才女だが、友だちと仕事もなし、コミュニケーション能力はゼロ、読書ばかりしている屈折女子だ。そんな彼女の話し相手はセラピストのペトロフ(ネイサン・レイン)だけ。

ある日、彼はキャリーに「幸せになるためのリスト」を渡し、そこに書かれた6つの課題をクリアするように告げる。「ペットを飼う」「子供のころ好きだったことをする」「デートに出かける」「友だちを作る」「1番お気に入りの本を読む」「誰かと大晦日を過ごす」――それで問題はすべて解決するのかと半信半疑ながらも、まずは金魚を2匹飼い始め、昔好きだったチェリーソーダを飲み、新聞の出会い広告でデート相手を探し……と1つずつ項目を実行していくキャリー。やがて、人と関わり打ち解けたり傷ついたりするなかで、徐々に自分の変化に気づいていく……。

この金魚の名前がスペンサーとキャサリンだったりして、映画通にはたまらない。もちろん、映画界のおしどりカップル、スペンサー・トレイシーとキャサリン・ヘプバーンのカップルが元だ。

この作品でキャリー・ピルビーがイヤホンで愛聴しているのが、エドヴァルド・グリーグの管弦楽曲、『ペール・ギュント』(Peer Gynt)作品23なのだ。一度聴いたら忘れられない曲だ。これは、ヘンリック・イプセンの『ペール・ギュント』のために作曲した劇の付随音楽でもある。

イプセンの『ペール・ギュント』は1867年に書かれた。本来は舞台向きでないこの作品の上演に当たって、イプセンは音楽によって弱点を補うことを考えた。そこで1874年に、当時作曲家として名を上げつつあった同国ノルウェー人のグリーグに、劇音楽の作曲を依頼した。作曲は難航して、1875年に完成した。

『ペール・ギュント』は、白を基調にしたマンハッタンのオフィスに妙に似合う音楽だった。

貴重な『フラニーとゾーイー』の初版本は、キャリー・ピルビーが元カレの男の家に預けていた。そこで登場し本を奪い返すのが、ロンドンに住んでいるという設定の父親役のゲイブリエル・バーン。このほか、セラピスト役のネイサン・レインもいい。

画像提供:松竹
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動画:DarwinsLilGirl – YouTube

IQがベラボーに高いが恋下手な才女の物語。グリーグの『ペール・ギュント』が不思議にマッチ!?Byron(バイロン)で公開された投稿です。