「昭和の大横綱」として一時代を築いた大鵬は、ウクライナと深い縁がある。自伝には、父親はロシア革命で日本に亡命した「白系ロシア人」とあるが、その故国はウクライナだ。大鵬、本名納谷幸喜さんは9年前、72歳で亡くなった。ロシアの侵攻による惨劇を知ったら、どれほど衝撃を受けることだろう。

 父親は東部ハリコフの出身という。当時の南樺太(現サハリン南部)に移住し、洋服店で働いていた日本人の女性と結ばれた。戦時中に父親と生き別れになった母子は、旧ソ連の参戦という大混乱の中、命がけで北海道に引き揚げた。過酷な運命が、現在のウクライナの人々に重なる。

 ハリコフ州で破壊された住宅のがれきの下から、民間人44人の遺体が発見されたと、州知事が数日前に明らかにした。プーチン大統領は長期戦に備えているという分析もある。むごい現実はいつまで続くのか。

 大鵬は20年前、ハリコフを訪れ、愛好家たちが開催した相撲大会を見物している。「大鵬幸喜大会」と冠し、その後も毎年開催されてきたという。在日ウクライナ大使館のウェブサイトで、そんな話が紹介されている。文章の日付は昨年10月。4カ月後、ロシアの暴挙で全てが暗転した。

 相撲の四股は、邪気をはらう神事に由来するという。その力をいまウクライナに-。泉下の大横綱が強く願い続けているのではないか。