「世界戦争の恐怖が繰り返されないように警戒する義務がある」。部分的に切り取ればその通りに違いない言葉だが、この人の口から発せられると強烈な違和感がある。国際法を踏みにじってウクライナに軍事侵攻し、核兵器使用も辞さない構えを示してきたのは誰なのか。

 ロシアのプーチン大統領が、対ドイツ戦勝記念日の式典で演説した。ウクライナの政権をナチス・ドイツと同一視し、米欧に対する不信感をあらわにして「対抗はやむを得なかった。時宜を得た、唯一の正しい決定だった」と侵攻を正当化した。

 ウクライナ東部では学校がロシア軍の空爆を受け、避難していた約60人が死亡したという。侵攻から2カ月半。戦場と化した街で、病院まで無差別に攻撃される。子どもたちを含め、各地で多くの命が奪われている。

 蛮行を「正義の戦い」と言う為政者の独善を目の当たりにしたら、歴史上のこの人物は悲しみに暮れるだろう。近代看護の創始者といわれる英国の看護師ナイチンゲールである。19世紀半ばのクリミア戦争で野戦病院に赴き、傷病兵の看護に奔走したことで知られる。あす12日、生誕202年を迎える。

 看護の道を歩む人が学ぶ「ナイチンゲール誓詞」に、こんな一節がある。「わが手に託されたる人々の幸のために身を捧(ささ)げん」。幸とは何か。かの国の為政者こそ胸に刻んでほしい言葉だ。