予期せぬ犯罪に巻き込まれ、命を落とした人の遺族や心身に重い傷を負った人に国から支給される犯罪被害者給付金を巡り、大阪・北新地で昨年12月に起きたビル放火殺人事件の遺族らが「少なすぎる」と声を上げている。制度の見直しを求め、2月に岸田文雄首相に要請書を送り、今月、法務省と国家公安委員会に申し入れをした。

 一方、長年にわたり犯罪被害者の権利保護と支援に取り組み、4年前に解散した「全国犯罪被害者の会(あすの会)」の活動を支えた弁護士や遺族が3月、会を再結成した。裁判所が加害者に損害賠償を命じても実際には支払われないことが多く、補償制度の充実などを目指すという。

 1981年に給付金の支給法が、2005年に犯罪被害者基本法が施行された。基本法は被害者保護を国や自治体の責務とし、被害回復や軽減により再び平穏な生活を営めるよう支援すると明記。刑事裁判で被告に直接質問したり、刑について意見を述べたりできる被害者参加制度をはじめとする法的な枠組みが徐々に整えられてきた。

 しかし給付金など経済的支援は、まだ十分とは言えない。見舞金を支給するなど被害者支援を目的とする条例を制定している自治体数も伸び悩んでいる。被害者の視点に立って国や自治体、地域が力を合わせ、制度の拡充を急ぐ必要がある。

 殺人事件などで家族を失ったり、重傷病や障害を負ったりした人には都道府県公安委員会への申請を経て、被害者の年齢や当時の収入などに応じて給付金が支給される。

 ただ26人が犠牲になった北新地の事件では、その多くが休職・退職し、放火されたビル内のクリニックで復職に向けて治療中だったため、遺族への給付額は低くなると支援団体はみている。治療中の夫を失った妻は給付金の算定方法に触れ「生産性がないから価値がないと言われたように感じた」と述べた。

 警察庁によると、20年度中の遺族給付金で1件当たりの最高額は2200万円余り、平均は590万円。最高額が死亡3千万円、重度障害4千万円の自動車損害賠償責任保険に及ばず、支援団体は首相宛ての要請書で「殺人に対する補償が自動車事故の死亡より低額なのは合理性を欠いている」とし、自賠責並みに拡充すべきだと訴えている。

 もともと給付金は、加害者が支払い能力に乏しい場合などに足りない分を補うのが目的だったとはいえ、遺族が暮らしを立て直すのをしっかり支えることができているかどうかを改めて議論し、見直しを検討したい。

 また新あすの会は、加害者から賠償金を受け取れる被害者が少ないため、賠償金を支払ってもらう権利を国が買い取る仕組みや、被害者に寄り添う「犯罪被害者庁」の設置などを求める。あすの会の時代に基本法の制定や被害者参加制度の導入、殺人などの公訴時効撤廃につなげるなど多くの足跡を残したが、課題が尽きず再び動き出した。

 各地の自治体による被害者の支援に特化した条例制定も欠かせないだろう。警察庁によると、昨年4月の時点で本県を含む32都道府県、8政令指定都市にあるが、市区町村は384で全体の2割程度にとどまった。どこに住んでいても、ニーズに合う十分な支援を受けられるよう環境づくりを速やかに進めたい。