東奥日報 東奥賞


第67回東奥賞

 東奥日報社が文化、芸術、産業など各分野で活躍し、本県の発展に貢献があった個人・団体に贈る第67回東奥賞が決まった。今年は、子どもをモチーフに見る人の内面に迫る絵画や立体作品などが国際的な評価を集め、日本の現代美術をけん引する奈良(なら)美智(よしとも)さん(弘前市出身・栃木県)と、抗炎症、保湿作用などを持つ機能性素材「プロテオグリカン(PG)」精製技術の開発に当たった弘前大学、角弘、県産業技術センターに贈る。同センターの研究員がPG成分の一部をサケの鼻軟骨中に発見。弘前大学と角弘がPGを低コストで大量に抽出する世界初の技術を確立し、各種製品展開へ道筋をつけた。贈呈式は12月6日午前11時から、青森市の国際ホテルで行う。



東奥賞
  ▽ 奈良美智さん(弘前市出身)−日本の現代美術けん引
  ▽ プロテオグリカン精製技術開発陣(弘大、角弘、県産業技術センター)



■ 日本の現代美術けん引 圧倒的な個性で魅了
  奈良美智さん(54)(弘前市出身)

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県立美術館の奈良美智さんのコーナーに設けられた小屋を中心とした展示「ニュー・ソウルハウス」(奈良美智+graf、ミクストメディア、2006〜08年)の一角で、作品に囲まれる奈良さん
 その作品で、真っ先に思い浮かぶのは、挑戦的なまなざしの子どもの絵だろう。さらに、廃材を用いた小屋を中心とした展示、リズミカルに繰り出されるドローイング(素描)の数々、県立美術館のシンボル「あおもり犬」に代表されるユーモラスな犬の立体−。それまでだれも見たことのない圧倒的な個性で、見る人の心のうちを揺さぶる。

 建築家や音楽家とのコラボレーションなど、既成の美術の枠組みを超えた活動でも知られ、若い世代を中心に絶大な支持を得る。

 各地の個展は多くのファンでにぎわい、国内にとどまらず、アメリカ、アジア、ヨーロッパと世界を巡る。

 今秋はロンドンで開かれ、来年3月には香港で初の個展を予定している。

 愛知県立芸術大学の学生だった1984年、名古屋市内で初めての個展を開いてから今年で30年になる。自身、振り返って特別な感慨を口にすることはない。「続けていること、それ自体が大切」と走り続ける。

 12年間を過ごした留学先のドイツから帰国後の2001、02年、国内初の本格的な個展「I DON’T MIND ,IF YOU FORGET ME.」が、高校までを過ごした出身地・弘前市の吉井酒造煉瓦倉庫を含む全国5カ所を巡回。どの会場も驚異的な来場者数で大きな話題を呼び、中でも弘前展はボランティア主体の運営で注目された。同倉庫では06年の「A to Z」展開催へと続いた。

 最近では、十和田市現代美術館で、市民とアーティストが交流しながら活動する「部活動」に「美術部長」としてかかわったり、若手作家の才能を発掘する県立美術館のプロジェクトを引っ張るなど、地域や次世代に種をまく活動に、広がりを見せる。

 「あくまで無理のない範囲で、力を貸すようなことがそろそろできるかな、という思いはあります」と語る。

 一方で「社会的な地位みたいなものが自分を苦しめることもあって、そこを乗り越えたら立派な作家になれるんだろうけど、そういう立派な作家にはなりたくないし。自由にやれたからここまでこれた」と人気ゆえのジレンマものぞかせる。

 現在、制作の拠点を栃木県内に構える。キャップ帽にジーンズのカジュアルなスタイル。語り口には、権威よりも弱いものへの共感、自由であることへの渇望がにじむ。「だから、こういう賞をもらっていいのかなと思うけれど、僕にかかわった友達や先生たちが、あいつを小さい時から知ってるぞ、と自慢してくれるならうれしいです」



写真 ◎いつも小さな声の側に(県立美術館学芸主査 高橋しげみさん)

 以前、奈良美智さんとお話しした時、「自分はいつも取り残されてゆくものに関心がいくんだよね」というようなことをおっしゃっていた。言われてみれば、絵の中の孤独な女の子たちも、好んで使う廃材も、展示の中に紛れ込ませる小物も、奈良さんの作品には、大きな流れからはみ出したり、時代から置き去りにされてゆくものがよく登場する。

 決して多数派になることのない小さなものを思いながら生み出された奈良さんの作品は、いつしか世界中の多くの人々の共感を得ていった。子どもにも大人にも美術に興味がない人にもある人にも、分け隔てなく働きかける力をそれらは持っていた。これは、常にどこか一部の人々のものであった美術の歴史の中でとても画期的なことだった。

 どんなに大きくなっても、いつも小さな声しか持たないものたちの側に立って創り続ける奈良さんの姿とその作品に救われる人々は、これからも増えていくと思う。



■ プロテオグリカン精製技術開発陣 応用の可能性もっと
  弘大、角弘、県産業技術センター

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プロテオグリカンの精製を行っている角弘のPG研究所(青森市)
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弘前大学、角弘、県産業技術センターが大量精製技術を開発したプロテオグリカン
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続々と誕生しているプロテオグリカン配合商品の一部
 リンゴ酢、ハンドクリーム、サプリメント、おにぎり…。本県発の機能性素材「プロテオグリカン(PG)」入り商品が続々と開発されている。県内企業を中心につくるPGブランド推進協議会によると、2014年3月末現在、会員企業43社が合わせて156種類のPG配合商品を製造。出荷額は約42億円に上る。サントリーウエルネスやダイドードリンコなど、国内大手企業も参入し、関連市場はさらに拡大している。

 PGの名前や、抗炎症、保湿などの作用が一般にも知られるようになったのは、商品開発が本格化したここ5年ほど。しかし、大量精製と産業利用に至るまでには、30年以上にわたる曲折の歴史があった。

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故高垣啓一氏
(遺族提供)
 PGは、タンパク質の「幹」に、糖がつながった成分(糖鎖)が「枝」のように多数結びついた構造を持ち、人間をはじめ動物の軟骨や皮膚などに存在している。PGと命名されたのは1970年。県内では、弘前大学医学部の研究員・高垣啓一氏(後に教授・故人)が中心となり、80年から研究が始まった。

 PGの抽出は当時、有害な試薬で複雑な工程を経て行われていた。多量の抽出が難しく、1グラム当たり3千万円の製造コストがかかっていたという。「高垣先生は『PGは高すぎて、十分な研究ができない。安くたくさん抽出できれば研究も深められるし、多くの人に知ってもらえるのに』と考えていた」。角弘PG研究所(青森市)の米塚正人所長はこう語る。

 大量精製への糸口となったのは、県産業技術センターの前身・県産業技術開発センターの研究だった。同センターは88年開設。弘大で糖鎖を専門に研究し、センターに赴任してきた松江一氏の提案で、県産素材の有効利用を目的に、食品を加工して出る廃棄物から糖鎖を探し出す取り組みを行っていた。

 開設当時、松江氏のもとでサケの頭部の活用方法を探っていた同センターの技師・内沢秀光氏(現・県産技センター弘前地域研究所バイオテクノロジー部長)は、サケの鼻軟骨中からPG成分の一部・コンドロイチン硫酸を抽出することに成功した。

 内沢氏は「コンドロイチン硫酸は、すでにいろいろな動物の軟骨にあることが分かっていたし、抽出方法も確立されていた。でも、サケの鼻軟骨からPGが精製できるとまでは思っていなかった」と振り返る。この研究が、後に高垣氏による精製技術開発へのステップとなる。

 98年のある日、弘前市内のなじみの居酒屋で、サケの鼻軟骨を酢漬けにした郷土料理「氷頭(ひず)なます」を食べていた高垣氏はひらめく。「氷頭なますの軟骨が軟らかいのは、サケ鼻軟骨のPGが酢に溶け出しているからかもしれない」

 着想を基に、酢酸でPGを抽出する技術開発に着手。研究室だけでは大量精製の実証が難しかったため、弘大は研究に協力してくれる県内企業を募った。素材の有望性に着目した角弘が加わり、2000年に酢酸抽出の技術を確立した。

 この製法は、従来の千分の1以下のコストで、大量にPGを精製できる。酢酸は人体に無害なため、産業利用への道も開けた。

 角弘は、商品化に向けて一層のコストダウンの研究を進め、10年に初のPG配合食品「PG−in りんご酢」を発売した。以降、商品開発の動きは各方面に広がっている。角弘PG研究所の米塚所長は「商品化まで時間がかかったため、社内には慎重論もあったが、PGの潜在能力に助けられ、研究を続けることができた」と話す。

 PG関連産業の拡大事業は、13年に文部科学省から「地域イノベーション戦略支援プログラム」の採択を受けた。現在、事業の研究統括を務める弘大大学院医学研究科の中根明夫教授は「構造が複雑なPGは、抽出方法によって性質が違ってくる面白い素材。人体への効果も未知の部分が多い。応用の可能性はもっと広がっていくだろう」と、今後への期待を語った。



写真 ◎県内外に経済波及効果(21あおもり産業総合支援センター理事長 今喜典さん)

 地域の資源にどう付加価値を付けるかは、産業振興の上で非常に重要で、永遠の課題だ。これまでも、県産素材を活用した研究はさまざまあったが、プロテオグリカン(PG)は幅広い商品の開発という形で産業に結びつき、県内外へ広く経済波及効果をもたらした、まれな例といえる。

 成分の発見、効果の検証、効率的な精製技術の確立と、産学官がそれぞれの得意分野で力を発揮し、連携して成果を生んだ点も意義深い。PGの精製技術開発に関わった方々の受賞に、心からお祝いを述べたい。

 PG関連産業は、まだまだ発展する可能性がある。受賞をきっかけに一層の成果の拡大を期待する。私たち産業支援機関も、商品化や販売戦略面での協力をさらに強化したい。




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