東奥日報 東奥賞


第66回東奥賞

 東奥日報社が文化、学術、産業など各分野で活躍し本県の発展に功績があった個人・団体に贈る第66回東奥賞が決まった。今年は、江戸期の大型弁才船の操船方法を復活させ、日本海・陸奥湾・東廻り各航路の一連の回航事業を成功に導いた復元弁才船「みちのく丸」乗組員一同(木村透さん、菊地栄さん、伊藤洋一さん、横山明典さん、福原啓文さん)、「弘前方式」として知られる独特の桜の管理技術を確立・発展させ、長年にわたり弘前公園の桜を守ってきた小林範士(のりお)さん・勝さん兄弟(ともに弘前市)、30年余にわたって独創的な漆器の創作を続け、日本伝統工芸展で最高賞の総裁賞に輝くなど、工芸界をけん引する藤田正堂(まさどう)さん(弘前市)、全国のご当地グルメを集めた第1回「B−1グランプリ」(2006年2月・八戸市)を企画するなど、今日に続くブームの火付け役として地域おこしに貢献した「八戸せんべい汁研究所」(八戸市)に贈る。贈呈式は12月7日午前11時から、青森市のホテル青森で行う。



東奥賞
  ▽ 「みちのく丸」乗組員一同 −復元弁才船で15都道県巡る
  ▽ 小林 範士さん、勝さん(弘前)−「弘前方式」の管理法確立
  ▽ 藤田 正堂さん(弘前)−独創的な漆器創作 工芸界けん引
  ▽ 八戸せんべい汁研究所 −ご当地グルメの火付け役



■ 被災地の人々に勇気
  「みちのく丸」乗組員一同

写真
波しぶきを上げて疾走するみちのく丸=8月5日午後、東京湾
 2009年から13年まで4度、青森港を発着地に15都道県23港を巡った復元弁才船「みちのく丸」。巧みに船を操り、先人の技術のすばらしさや日本近世の開拓精神を示してきたのが、船頭木村透さん(48)ら乗組員と青森セーリングクラブのメンバーだ。勢いよく帆走する姿や各地での船内見学を通じ、北前船ゆかりの地や東日本大震災被災地の人々を勇気づけ、港に活気をよみがえらせた。

 みちのく丸は、青森市のみちのく北方漁船博物館財団が、和船の建造技術と北前船の歴史を後世に伝えることを目的に、05年に建造。全長32メートル、全幅8.5メートル、積載量150トンに上り、NHK大河ドラマの撮影で使われたこともある。

 北前船は江戸から明治の時代にかけ各地の物流や文化交流を担った。木村さんら乗組員は、ほぼ資料の残っていない操船方法を手探りで復活させ、09年青函、11年日本海側、12年陸奥湾、そして13年は太平洋側(東廻り)を回る文化交流事業に挑み、歴史ロマンたっぷりに大海原を駆けた。各地での展示やイベントは多くの人たちの目を引きつけた。

 「行った先々でみちのく丸を見て喜んでもらい、被災地では航海の無事を祈ってもらうなど逆に元気をいただいた」と木村さん。「事故なく航海できたのは、かかわってくれたすべての皆さんのおかげ」と感謝は尽きない。



写真 ◎操船技術 日本の誇り(西村一広さん=プロセーラー)

 日本全国に何隻か存在する復元弁財船のうち、みちのく丸は実際に航海し帆走することができる唯一の千石積みの大型船だ。みちのく丸が貴重な日本の文化財になり得ているのは、それを100年前と同じ方法で実際に帆走させることができる技量と、経験を持つ乗組員がいるからこそである。

 ご自身たちの仕事の時間を削り、趣味の時間を削って、みちのく丸を安全に航行し、帆走する技術を習得してきた過程には、並々ならぬご苦労があったことだと思う。東日本大震災被災地の方々を勇気づける航海も達成し、東北の誇りであり日本の誇りでもあるみちのく丸とともに、乗組員の皆さまは東北の誇り、日本の誇りである。この度の受賞を心から祝福したい。



■ お城の桜 兄弟で守る
  小林 範士さん(63)勝さん(59)(弘前市)

写真
日本最大の幹回りを誇るソメイヨシノの前で笑顔を見せる小林範士さん(左)と勝さん=弘前公園
 弘前公園の2600本の桜を守るため、樹木医の小林範士さん、勝さん兄弟は半生を懸けて全国に先駆けた「弘前方式」の桜の管理技術を確立させた。

 病気や害虫に弱く、寿命60年といわれてきたソメイヨシノ。だが、園内には樹齢100年を超えたソメイヨシノが300本以上ある。半世紀前、公園管理事務所長だった工藤長政氏(故人)がリンゴの剪定(せんてい)技術を取り入れたことが独自の管理法の始まりだ。

 工藤氏から1973年に桜の管理を引き継いだ範士さんは92年、桜の根元を掘り起こし病の根を切り取る「外科手術」に初めて踏み切った。剪定、施肥、薬剤散布といった枝ぶりを重視した管理から土中にも目を向け、弘前方式を新たな段階へ引き上げた。

 勝さんは83年から市公園緑地協会の職員として範士さんを支えた。2000年4月に脳内出血で倒れた兄の後を継いで04年、市職員として公園緑地課に配属。11年12月に高さ16メートルの園内最大のシダレザクラ「二の丸大枝垂れ」が雪の重みと根の病気によって倒れると、根を再生し増やそうと、別の桜の根や幹を活着させる新手法「根接ぎ」に挑み、成功させた。

 老木の桜は手厚い管理が不可欠。勝さんは「古いものが弘前公園の特徴。今ある桜をずっと守って、これからもきれいに咲かせないといけない」と未来を見据えている。



写真 ◎「寿命60年」の定説覆す(浅田信行さん=日本さくらの会事務局長・樹木医)

 小林範士さん、勝さん兄弟が表彰されることは、さくらを守り育てることに従事する者が勇気づけられ、誠に喜ばしく思います。

 小林兄弟が、築き上げた「弘前方式」とも呼ぶべき手入れ方法は、降雪地における模範です。長年にわたる現場作業と地道な思考と努力で、弘前城のさくらが世界に知られることになったと思います。

 また、ソメイヨシノの樹齢は短いと一般的に考えられていたことを、手入れにより100年を超える年月を経ても、なお花を咲かせてくれる木だということを知らしめてくださったことは多大な功績です。

 今後とも、各地でさくらをはじめとして植物に関わり、環境整備に携わる人々の先達としてご活躍されることを願います。



■ 美しさ 極限まで追求
  藤田 正堂さん(55)(弘前市)

写真
「後世に残るものを創り続けたい」と語る藤田正堂さん
 ガラスのような透明感、しっとりとした深いつや…。彫漆(ちょうしつ)や蒟醤(きんま)、蒔絵(まきえ)など多彩な技法を駆使した藤田正堂さんの漆器には、独創的な美しさがある。地元に根付く津軽塗とは異なるが「同じ樹液を使い、生まれ育った弘前で漆の仕事をするというシンプルな考えでずっとやってきた」と語る。

 その言葉通り、作品の色や形には故郷の景色が垣間見える。たとえば朱なら、八甲田の燃えるような紅葉。弘前城の石垣をモチーフにした2012年の「彫漆蒟醤蓋物(ふたもの)『律』」は、洗練された形が高く評価され、日本伝統工芸展で最高賞の総裁賞を受賞。近年は特に、装飾や説明を極限までそぎ落とした「かたちの美しさ」を追求する。

 漆芸家だった父の故清正さんの影響もあり、20歳で漆の道に。四国・高松の漆芸研究所で学び、人間国宝の磯井正美氏に師事。帰郷から30年間、日本伝統工芸展など年3回の公募展に一度も欠かさず出品してきた。「漆の世界は続けることが一番難しい。父、家族、師匠など支えてくれる人がいなければできなかった」と感謝する。

 人のまねはするなという父と師匠の言葉が常に胸にある。「数多くできる仕事ではないからこそ、後世に残るものを生み出したい。これからも一点一点、その気持ちを大切に作りたい」



写真 ◎地方から世界に発信を(室瀬和美さん=日本工芸会副理事長、重要無形文化財(蒔絵)保持者)

 彼(藤田さん)が高松にいた頃から30年来の付き合い。どの作品にも彼ならではのおおらかさ、あたたかさがあり、人間性が表れている。特に色調がとてもいい。色の変化、使い方はすばらしい。

 総裁賞を受賞した「律」は形もユニーク。加飾(装飾)をすると、つい増やしてしまいがちになるが、彼は我慢して絞り込み、これしかないというデザインに決める。試行錯誤や自問自答を繰り返したことが感じられる。

 次世代の漆文化を担う一人として、弘前という地方からの力を、東京のみならず世界に向けて発信してもらいたい。彼の漆は世界に十分通じる。日本を背負っているという気構えで創作を続けてもらいたい。今後の一層の活躍が楽しみだ。



■ 郷土の味と名 全国へ
  八戸せんべい汁研究所

写真
前年にゴールドグランプリを獲得し、9、10日に開かれた今年のB─1グランプリでも自慢の味をPRした八戸せんべい汁研究所のメンバー=愛知県豊川市
 せんべい汁は、八戸地方で200年にわたり、受け継がれてきた郷土料理。八戸せんべい汁研究所は2003年11月、地元でしか知られていないせんべい汁を全国ブランドにし、町を元気づけようと発足した。汁研(じるけん)の愛称で親しまれ、田村暢英所長、木村聡事務局長をはじめ、メンバーたちはそれぞれが仕事を持ちながら、手弁当で活動を展開している。

 06年2月、汁研の企画で初めて開催されたのが、今や全国的な人気イベントに成長したご当地グルメの祭典「B−1グランプリ」だ。地元八戸で開催した第1回大会は、参加10団体、来場者1万7千人だった。大会はその後、回を重ねるごとに規模が拡大し、昨年の第7回大会(北九州市)では参加63団体、来場者61万人という巨大イベントになった。各地に眠る地元の食文化を表舞台に立たせ、昨今のご当地グルメブームを巻き起こした、汁研はまさに火付け役と言える。

 一方、汁研自身は第6回大会まで、上位に名を連ねながらも頂点に届かずにいた。しかし、昨年の大会でついに初のゴールドグランプリに輝き、「せんべい汁」「八戸」の名を全国に知らしめた。

 東奥賞受賞に木村事務局長は「高い評価をいただいたことは、とてもうれしく励みになる。気を引き締め、一層しっかり活動したい」と語った。



写真 ◎市民に元気をくれた(小林眞市長)

 八戸せんべい汁研究所の皆さん、東奥賞受賞、誠におめでとうございます。八戸市民として誇りに思います。

 皆さんは、八戸せんべい汁を全国でも有名なご当地グルメに育て上げただけでなく、八戸せんべい汁を通じて全国に八戸をPRされ、多くの方が当地を訪れるきっかけとなり、まちの活性化に寄与されています。八戸せんべい汁が八戸にもたらした経済効果は数百億円ともいわれ、また、イベントなどで見せるユニークなパフォーマンスも、私たちに元気を与えてくれました。

 昨年のB−1グランプリで悲願のゴールドグランプリを獲得した皆さんですが、既にまちおこしの次の一手を考えていることでしょう。皆さんのさらなる飛躍を期待しています。




インデックスに戻る


HOME