東奥日報 東奥賞


第61回東奥賞

 東奥日報社が、産業、学術、文化など各分野で活躍し本県の発展に功績を残した人・団体に贈る第六十一回東奥賞が決まった。今年は、文芸評論家の三浦雅士さん(61)=弘前市出身・東京都在住、青森放送のラジオ番組「RAB耳の新聞」、青森中央高校演劇部に贈られる。

 三浦さんは、該博な知識と旺盛な探究心で、思想・文芸評論に独自の世界を構築。

 「RAB耳の新聞」は三十年間、目の不自由な人たちに有益な情報を伝え続けた。

 青森中央高校演劇部は二度目の日本一に輝き、本県高校演劇のレベルの高さを全国に知らしめた。

 贈呈式は十二月六日午前十一時から、青森市の青森国際ホテルで開かれる。


東奥賞
  ▽ 文芸評論家三浦雅士さん(弘前市出身・東京都在住)−該博な知識と旺盛な探究心で、思想・文芸評論に独自の世界を構築
  ▽ ラジオ番組RAB耳の新聞−三十年間、目の不自由な人たちに有益な情報を伝え続けた
  ▽ 青森中央高校演劇部−二度目の日本一に輝き、本県高校演劇のレベルの高さを全国に知らしめた



■ 人間精神の秘密に迫る
  三浦 雅士さん(弘前市出身・東京都在住 文芸評論家)

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「新たな“処女作”執筆へ向けて受賞は感無量」と語る三浦さん=東京都文京区の新書館で
 「生きることに根拠はないのではないか」。多感な少年の心に巣くった哲学的懐疑が、人間精神の秘密に迫り続ける評論活動への出発点となった。

 後年、弘前高校の図書室の書物を読み尽くしたという“伝説”の主となる三浦さんは、学業にあきたらず、半ば強引に上京。カミュの翻訳者としても知られる仏文学者の宇佐見英治や詩人の那珂太郎と出会い、才能を開花させていく。

 創刊にかかわった青土社の詩誌「ユリイカ」と「現代思想」では、二十代で編集長を務め、次々と特集号をヒットさせて天才と称された。今も変わらぬ熱っぽい語り口に励まされた文筆家は数知れない。

 一九八一年までに両誌を軌道に乗せると、原点となった疑問に導かれるようにして退社し、評論活動に入る。処女作「私という現象」をはじめ「主体の変容」「メランコリーの水脈」「寺山修司−鏡のなかの言葉」「身体の零度」「考える身体」などのタイトルが、粘り強い思索を物語る。

 旺盛な知的好奇心は思想、芸術・文化、風俗など全般に及び、その該博な知識を基に社会・文明の在り方を問い続け、第一級の知的世界を構築してきた。代表作の一つ「青春の終焉」で「太宰治は落語家である」と喝破し、「出生の秘密」では漱石文学に新たな光を当てた。

 しかし、ここにきて「自分が分からなかったことの、その分からなさが分かってきた。今までの著作は習作のようなもの。これから根本的な問題に全面的に取り組んでいきたい」と語る。

 「自分というものは、父母であれ、恋人であれ、外部の別個の視線によって認められなければ存在できない」「人間はその中に社会を持っている」−。三浦さんの到達点は、論証部分を端折ると難解かもしれない。

 それでも「常に迷い、苦しむということは、むしろ人間の特権であり、喜びでもある」「何が幸せなんだろうと考えること自体が、幸せな方なんだ」という言葉は、少年時代の疑問と見事に照応していた。

写真 ◎前人未踏の分野開拓(長部日出雄さん=作家)

 三浦雅士さんは若くして雑誌「ユリイカ」や「現代思想」の編集長として世に知られたころから、稀(まれ)に見る逸材との聞こえが高く、文壇にデビューすると、サントリー学芸賞、読売文学賞、芸術選奨文部科学大臣賞など数々の賞に輝き、文芸評論家として当代随一の俊英という評価を確立した。

 文芸評論の対象は文字言語による作品であるが、三浦さんは文学とともにバレエやダンスにも目を向けることによって、文字言語とそれに先立つ音声言語、身体言語…と、人間の表現行為の全体を視野に入れた前人未踏の画期的な批評の分野を切り開いた。それは混迷する今の世界にとって非常に重要な仕事で、今後一層の活躍を期待してやまない。



■ 視覚障害者の可能性に挑戦
  ラジオ番組RAB耳の新聞

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ラジオ番組「RAB耳の新聞」をともにつくるパーソナリティーと聞き手、ディレクターたち=青森市松森1丁目の青森放送
 「番組をやってみませんか」「無理ですよ」

 三十年前、当時、県立盲学校教諭だった小田垣康次さん(70)は、青森放送ラジオ局ディレクターだった安達尚彦さん(66)の言葉に耳を疑った。盲人による盲人のためのレギュラー番組をつくる。取材も放送も、務めるのはあなたたち−。

 安達さんの胸には、取材で知り合った視覚障害者の「ラジオよりテレビを聴いて情報を得ている」というショックな一言があった。「視覚障害者の熱い思いを側面から手助けしたい」。その説得に、小田垣さんの心は傾いていく。「こういうチャンスは二度とない」

 尻込みする仲間の中から三人を説き伏せて、一九七八(昭和五十三)年五月六日、視覚障害者四人が週替わりでパーソナリティーを務める異色のラジオ番組「RAB耳の新聞」はスタートした。

 当初、お知らせ的な内容からの突破口となったのは「盲人のための青森駅ガイド」という企画。パーソナリティーがマイクを持ち、点字ブロックを頼りに切符を買って列車に乗るまでをリポート、大きな反響があった。

 それからパーソナリティーたちは旺盛な好奇心で、暮らしに役立つ情報を発信し始める。化粧を学び、自動車を運転する夢をかなえ、音声付き調理器の商品改良に結びつけたこともあった。番組は地味だが、この三十年は延べ十数人のパーソナリティーたちが、自分たちの、盲人の可能性に挑み続けた年月だった。

 それを裏付けるように番組は放送開始の翌年、日本民間放送連盟賞金賞を受賞。番組から生まれた新たな企画番組も芸術祭大賞、ギャラクシー大賞などを受賞してきた。

 現在は小田垣さんと妻の妙子さん(59)、前県視力障害者福祉連合会長の内田利男さん(73)と妻の初江さん(68)、同会青年部長の土崎庸子さん(42)=以上青森市、弘前市の盲人マラソンランナー秋田修さん(59)、むつ市のシンガー・ソングライター板橋かずゆきさん(38)、十和田市のマッサージ師南舘邦士さん(54)の八人が福祉、生活、教育、音楽などさまざまな話題を取り上げる。

 青森放送の現担当ディレクター小島雅子さん(39)は「皆さん前向き。視覚障害者の生活は特別ではない」と感じてきた。前担当者の渡辺英彦さん(48)は「音の貴重さ、ラジオディレクターの基礎を学んだ」と話す。

 毎週日曜午前六時四十分から二十分間。明るく想像的な、音だけの情報の時間。「ラジオの原点」がそこにある。

写真 ◎表現力に引きこまれる(梶本久夫さん=ユニバーサルデザイン・コンソーシアム代表理事)

 人は五感のうち八割の情報を視覚から得る。視覚障がい者は残り四感に頼らざるを得ないからこそ、研ぎ澄まされた感覚で気づきを与えてくれる。

 二〇〇八年八月二十四日放送の「大きなミニトマト」ではパーソナリティーの小田垣妙子さんが食の原点に迫るのだが、その表現力に思わず引きこまれてしまう。新鮮でありながら規格外の野菜を食べたときのジューシーな表現。規格外のゴボウやナガイモを活用した乾燥野菜の加工会社を取材するときの臨場感。乾燥野菜を調理するときの触感。そして、主婦の視点を織り交ぜて家計への貢献や「もったいない」の精神に言及する展開。目を閉じると、パーソナリティーが織りなす情景が鮮やかに広がる。

 明確な表現能力のなせる技であることはもちろんだが、何よりも楽しみながら放送している明るさに惹(ひ)かれるのだ。

 障がいはマイナスではなくプラスであることを伝えてくれる「RAB耳の新聞」は、社会的に有意義な番組だ。



■ 「楽しく演技」モットー
  青森中央高校演劇部

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12月下旬に盛岡市で開かれる東北地区高校演劇発表会に向け、練習に励む演劇部の部員たち。部長の太田さん(手前)らが演出を手がけている
 全国的にもレベルが高い−といわれる本県の高校演劇。今年八月、群馬県で開かれた「全国高校総合文化祭」演劇部門で、青森中央高校演劇部は二〇〇五年に続く二度目の最優秀賞に輝いた。上演作は、いじめをテーマにした「河童」(作・畑澤聖悟)。予選を含め、およそ二千五百校の頂点に立ったことになる。

 「群馬では、連日の暑さで部員の体力消耗が激しかった。今までやってきた練習を信じ、『ベストの状態で見せる』ことだけを考えました」と、部長の太田媛乃さん(三年)は振り返る。

 現在の部員は一年から三年まで二十人。「楽しく演じよう」が演劇部のモットーだ。県内外でも積極的に公演を行い、幅広いファンがいる。

 近年の快進撃は、〇六年度まで顧問だった畑澤聖悟教諭(現・弘前中央高校教諭)によるところが大きい。畑澤教諭は「演じることを楽しむ」「重要なのは、コンクールの結果よりもお客さんの拍手」と、部員たちにみっちり演劇を教えてきた。十年ほどの間に数多くの受賞歴を築き上げ、〇五年の最優秀賞受賞作「修学旅行」(作・畑澤)は、ソウルでの海外公演も果たしている。

 現在顧問を務める里村隆教諭は「役者の経験もあり、卓越した技術を持つ畑澤先生の指導が今の演劇部の土台にある。生徒も多くの経験を積み、自分たちで考える力量を身につけるまでに成長した」と力を込める。

 畑澤教諭が転勤して二年。今は生徒たち自身が演出を手がける。今年は太田さんがその役目を任された。「河童」では主人公を演じつつ、作品全体をつくりあげるという責任ある立場だったが、プレッシャーをはねのけ、日本一に導いた。

 練習では場面ごとに作品を区切り、「セリフがちょっと早かったね」などと注意点を丁寧に拾っていく。太田さんは「役者の個性をつぶさないよう気をつけています。自分たちらしい演劇を見せたい」とほほえんだ。

 十月の県高校総合文化祭では、昨年に続き最優秀賞を獲得。十二月には東北地区高校演劇発表会が控えている。「一度頂点に上ったという重圧を感じるけど、頑張って良いものをつくりたい」と二年の坂口海さん。抜群のチームワークで、再び「全国の舞台」を目指す。

写真 ◎高校生の姿真摯に描写(須藤 敏さん=県高校文化連盟演劇部委員長)

 半世紀を越える高校演劇の歴史の中でも、青森中央高校の存在は大きな意義を持っている。九年前、全国大会で上演された「生徒総会」は初出場ながら優秀賞を受賞。この作品は高く評価され、その後の高校演劇の方向性を示す道しるべともなった。

 同校演劇部は、その時々の高校生の姿を真摯(しんし)に描く。高校生の持つ大胆さと繊細さ、そして自己の矛盾を丁寧に紡ぐ。そこには現代社会の縮図が見えてくる。演じるレベルとしても高い水準を求められ、この域に達するには相当の修練が必要だ。部員の日々の努力がうかがえる。

 また、顧問の里村隆先生と、すべての作品を書き下ろしている畑澤聖悟氏の揺るがぬ情熱も忘れてはならない。

 二度の全国制覇は本県演劇界の奥深さを全国に示した。同校の今後の活躍を願ってやまない。




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