 |
研究団の調査とフォーラム概要 |
 | | グエン・ズオン・ホアン 国立歴史博物館専門官 |  | | トゥアン・ハウ・イエン・テー 国立ハノイ美術大学講師 |
「是川遺跡ジャパンロード(漆の道)プロジェクト」の研究団は六月二十二日から二十九日までの日程で、ベトナムの漆文化を調査した。首都ハノイ近郊のハイフォン市にあるベトヘー遺跡から出土した約二千四百年前の漆遺物が現時点でベトナム最古であることを確認したほか、宗教芸術として一つの頂点に達したとされる漆塗りの仏像、独特の表現力を持つ「漆画」など同国の多様な漆文化を視察。漆液採取や漆器生産の現状を現場で聞き取りした。メンバーは小山修三・国立民族学博物館名誉教授、佐藤洋一郎・総合地球環境学研究所教授、日高薫・国立歴史民俗博物館助教授、工藤竹久・八戸市教委文化課長ら。
日本の研究グループとして初めてベトヘー遺跡(発掘跡)を視察したほか、ハイフォン博物館による貴重な遺物の特別公開など数々の成果があった。一方、工藤課長ら市教委は、約三千年前の優れた漆遺物が出土している八戸市の是川遺跡をベトナムの研究者に紹介。二十七日にハノイで開いたフォーラムでは、研究団とベトナムの研究者たちが考古学や漆工芸術、植物研究など多角的な視点からアジアの漆文化を語り合った。調査とフォーラムの概要を報告する。
◇
六月二十七日のフォーラムでは、ハノイにある国立歴史博物館のグエン・ズオン・ホアン専門官、国立ハノイ美術大学のトゥアン・ハウ・イエン・テー講師と、ジャパンロード研究団メンバーが発表や意見交換をし、考古学、漆工芸術、植物研究など多角的な視点からアジアの多彩な漆文化を考察した。(本文中・敬称略)
◇
 | | 小山修三 国立民族学博物館名誉教授 |
 | | 佐藤洋一郎 総合地球環境学研究所教授 |
 | | 日高薫 国立歴史民俗博物館助教授 |
グエン ベトナムの漆文化の形成を話したい。漆器は二千五百年から二千年前のドンソン文化の時代から歴史がある。紅(ホン)河平野は漆芸術発祥の地の一つ。ベトナムの漆芸術は伝来のものではなく、現地発生的なものであり、民俗、歴史の中で数千年にわたって発展してきたと考える。
紀元前、紀元後のベトヘー、ドゥオンズー、チャウソンなど舟形木棺が納められた墳墓では一般的に漆器があり、ベトヘー遺跡で見つかった遺物はドンソン文化に属するグループと、中国の中原地方あるいは蜀、楚の文化に起源を持つグループに分けられ、一定の交流が行われている。
紀元一世紀から十世紀の(中国に支配された)北属時代の漆器はほとんど見つかっていない。十七世紀から十九世紀にベトナムの漆器は大きな発展を見せた。粘土やのこくずなどを漆に混ぜて塗った十七、十八世紀のお坊さんのミイラも発見されており、当時の際立った漆技術を証明している。
トゥアン ベトナムの漆は宗教芸術と深い結び付きがあり、陶器のように商品性を持つものではなかった。一九二五年にインドシナ美術高等学校が設立され、漆の装飾芸術が系統だって教えられるようになった。三二年になると、学生たちは日本の漆と出合い、金粉と銀粉の使い方など先進の技術を知った。日本の造形芸術と漆工業はベトナムの漆芸術にさまざまな影響を与えた。ベトナムの芸術家たちは、漆の使用を装飾的なものから造形芸術へと移行させ、絵画芸術の一つの流れとして漆画の誕生に至った。
小山 今回の調査で感じたことは。
日高 ベトナムの漆器は、日本とは違い、中国の影響を受けているようだが同じではなく、タイ、ミャンマーなどとも違い、大変面白い。いろいろな時代にさまざまな交流があっただろうことが垣間見える。例えば、漆画で卵の殻を張り付ける技法は、日本では幕末から明治に流行した技法であり、日本からベトナムに入ったと思う。
トゥアン ベトナムで卵の殻を使うようになったのは、一九三二年ぐらいだと言われている。蒔絵(まきえ)の技法もそれ以降に日本から入っている。
小山 植物的な面ではどうか。
佐藤 フートー省タムノン県のウルシの山を見て、日本のウルシとベトナムのウルシは見かけが大分違うと感じた。品種のレベルでは明らかに違うと思う。
DNA分析をして調べたい。
小山 ベトナムの漆はドンソン文化と一緒に展開したというが、青銅器や稲作とセットになっており、日本では弥生時代の文化的構造だ。(約三千年前の縄文時代晩期に高度な漆文化があった)是川遺跡を考えると、ベトナムでもドンソン文化以前から漆文化があるのではないか。
グエン 非常に重要な問題で、引き続き研究していく。日本側の協力などを得て、ドンソン文化以前の漆が発見できればいいと思っている。八戸市は縄文博物館をつくるというが、それによって研究が一層進むのではないか。
小山 会場の参加者から質問などあれば。
男性 漆の生産用具は日本とベトナムで違いがあるのか。ベトナムでは現在、漆器生産に合成塗料が使われているがどうしてか。
小山 用具類は基本的にはそう変わらないと考えている。文化を守るためには、意識と力がなければならない。合成塗料を使えば見た目が(天然漆と)ほぼ同じだったり、もっと派手なものを作ることができるため、その方向に流れてしまうのではないか。日本のように伝統的な漆器を大事にするようになるには、まだ時間が掛かると思う。
女性 ベトナムの博物館や美術館を訪れ、とても素晴らしい文化があると思った。漆を通したベトナムとの文化交流をぜひやってほしい。
八戸市助役・大河原隆八戸は海から開けたまちであり、いろいろなところと交流するのが八戸の特徴。これから考えていきたい。
 | | フォーラムであいさつする佐々木高雄東奥日報社社長 |
◇
▽ジャパンロード・ツアー団長の佐々木高雄東奥日報社社長あいさつ 県民の財産である八戸市の是川遺跡は、デザインや工芸的に優れた漆遺物がたくさん出土している。東南アジアにも立派な漆文化があり、漆のルーツを訪ねて昨年から始まった旅は今回、ベトナムへとやってきた。ハノイと日本の研究者を迎えたフォーラムは、素晴らしいものになるでしょう。
|