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  • 2017年9月12日(火)

人づくり革命/財源難航、実現に疑問符/政権浮揚へ透ける思惑

 教育無償化を柱に掲げた安倍政権の新たな看板政策「人づくり革命」の議論が始まった。教育格差是正をうたうが、巨額の財源探しは難航必至で実現には疑問符が付く。揺らぐ政権の浮揚に向け、憲法改正や衆院解散を見据えた思惑が透ける。

 ▽悲願

 「志があっても経済的に恵まれない若者が勉学に専念できる環境整備が必要だ」。11日始動した教育無償化を話し合う会議で、安倍晋三首相は出席した10代から80代まで幅広い層の有識者に対し「人づくり革命は政権最大のテーマだ」と本気度をアピールしてみせた。

 教育無償化を目玉とするのは、子どもの貧困対策を求める声が高まっているからだ。北海道の私立大1年の深堀麻菜香(ふかぼり・まなか)さん(19)は年間17万円の大学独自の給付型奨学金と週末のアルバイトなどで学費や生活費を賄う。日本学生支援機構による返還不要の給付型奨学金は、成績要件が基準にわずかに届かず受給できていない。「所得の条件を満たす全ての進学者が受給できるようにしてほしい」と切望している。

 支援機構は給付対象を2017年度の約2800人から18年度は約2万人に広げるが、文部科学省が見込む低所得世帯の進学者は約6万人に上る。深堀さんは「家庭の経済的事情で進学を諦めると貧困の連鎖から抜け出すのが困難になる」と訴える。奨学金制度拡充は悲願だ。

 ▽反発

 一方、財政規律を重視する財務省幹部は「日本の大学進学率は世界的にみて高水準にある」とし、大学など高等教育への大幅な支援拡充に慎重姿勢を示す。文科省の試算では、大学無償化には約3兆1千億円に上る追加財源が発生するためだ。

 幼児教育を含む無償化財源全体の候補の一つが、雇用主と従業員が保険料を折半する「こども保険」だ。企業の負担が増えるだけに、経済界は「非常に違和感がある。増税で財源を捻出することがまずは正しいと思う」(日本商工会議所の三村明夫(みむら・あきお)会頭)と反発する。

 大和総研の熊谷亮丸(くまがい・みつまる)チーフエコノミストは、高等教育改革で今求められているのは教育の質を高めることだと指摘。日本の財政状況を踏まえると「無償化は現実的ではない」と疑問視する。

 ▽俎上

 安倍首相が教育無償化を初めて明確にぶち上げたのは今年5月3日、憲法改正を訴える会合へ寄せたビデオメッセージだ。「高等教育を全ての国民に真に開かれたものにする」と明言。9条への自衛隊明記と並び改憲の具体的テーマに挙げた。

 前触れはあった。今年1月の通常国会で、教育無償化を改憲項目に掲げていた日本維新の会に対し「教育のあるべき姿を含め真摯(しんし)に議論されていることに敬意を表したい」とエールを送った。教育無償化論は民進党内にもあり「各党が反対しにくいテーマ」(自民党政調筋)なだけに、賛同者の広がりも期待できる。

 ただ、既に存在する自衛隊を書き込む9条改憲と違い、教育無償化はゼロから制度設計が必要だ。財源問題も横たわる。「安倍1強」とされた盤石な政権基盤は揺らいでおり、与党幹部は「改憲ありきで俎上(そじょう)に載せられ、まだ誰も頭を整理できていない」と心配する。

 自民党は年明けの通常国会で憲法改正原案を提出し、発議を目指す。来年末には衆院議員の任期満了が迫っている。こうした日程をにらみつつ、閣僚経験者は「財源論で負担増に踏み込むより、聞こえの良い政策を示せればいいという雰囲気もある」と明かした。

(共同通信社)

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