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  • 2017年9月11日(月)

陸上男子100メートルで9秒台/悲願達成もトップと隔たり/層厚い「人類最速レース」

 世界から49年遅れて日本選手が陸上男子100メートルの9秒台突入を果たした。21歳の桐生祥秀(きりゅう・よしひで)(東洋大)が9日、福井県営陸上競技場で行われた日本学生対校選手権で9秒98をマーク。「まだ実感はない。9秒台はうれしい気持ちでいっぱい」と悲願達成を喜んだ。だが世界と戦う上ではトップとの隔たりは大きく、一層のレベルアップが求められる。

 ▽転機は世界陸上

 日本が9秒台に近づく転機になったのが1991年世界選手権(東京)だった。日本陸上競技連盟が「バイオメカニクス班」を結成し、当時の世界記録9秒86を樹立したカール・ルイス(米国)らの動きを詳細に分析した。高く上げているように見えた膝が実際はそれほどではないことが分かるなど、走りの常識が崩れ始めた。

 日本では70年代に招いたポーランド人のゲラルド・マック氏の練習法が「教科書」だった。「膝を高く上げる」との教えから「もも上げ」が重視されていたが、日本人の骨格には必ずしも効果的ではなかったことにも気付いた。

 日本人向けのフォームを追求するようになり、伊東浩司(いとう・こうじ)はももを高く上げず、すり足に近い感覚の走りを磨いて98年に10秒00まで日本記録を伸ばした。400メートルの日本記録を持つ高野進(たかの・すすむ)氏は「91年をきっかけに日本に必要な部分がより絞り込まれた。それをベースに積み上げてきた」と解説した。

 ▽戦前から挑んだ壁

 欧米の選手に比べて体格で劣る日本人だが、35年に当時世界タイの10秒3(手動計時)を出した“暁の超特急”吉岡隆徳(よしおか・たかよし)ら歴代のエースは戦前から10秒の壁突破に挑んできた。吉岡の「ロケットスタート」に代表されるように、多くの日本勢はスタートに意識を割いてきた。

 100分の1秒までを表示する電気計時の時代になって、90年代には黒人選手のように後半に伸びる朝原宣治(あさはら・のぶはる)が日本記録を3度更新して10秒08まで伸ばした。ただ10秒の壁は高く、足踏みが続いた中で再び9秒台への機運を高めたのが桐生だった。2013年に10秒01。その後、重圧と戦いながらついに壁を突き破り「やっと4年間くすぶっていた自己ベストを更新できた」としみじみと話した。

 ▽甘くない世界

 だが10秒の壁を1度突破したぐらいで活躍できるほど世界は甘くない。国際陸上競技連盟によると、桐生を含めて9秒台で走った選手は126人。200メートルの19秒台が66人なのと比較しても、人類最速を争うレースは層の厚さが違う。

 人類初の9秒台は68年にジム・ハインズ(米国)が出した9秒9。電気計時でも同年に9秒95をマークした。白人選手ではクリストフ・ルメートル(フランス)が10年に9秒98。中国勢も15年に蘇炳添(そ・へいてん)が9秒99で走った。

 9秒58の世界記録を持つウサイン・ボルト(ジャマイカ)が3連覇したリオデジャネイロ五輪には28人の9秒台スプリンターが挑戦。決勝には8人しか進めず、多くがそれまでに姿を消した。

 日本の大会はトラックの質や風など、条件に恵まれていると言われる。今回も記録が公認される上限の2.0メートルに迫る1.8メートルの追い風があった。「やっと世界のスタートラインに立てた」と話す桐生は今後、どんな環境下でも10秒0前後で走れる力をつけることがまずは重要となる。

(共同通信社)

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