2011年4月30日(土) 東奥日報 天地人



 「黒い雨」。原爆投下後の広島に降った雨を作家の井伏鱒二はそう表現した。放射能を大量に含んだ雨が、核攻撃を受けた日本国民に二次被ばくという追い打ちをかけ、深く心と体をむしばんだというのである。

 風呂場でズルッと抜ける長い髪。いや応なく死と向き合うことになる美しい娘…。先日葬儀が営まれた田中好子さんは同名の映画(1989年)で、黒い雨を浴び「ピカに遭った」女性を体当たりで演じ、アイドルから女優へ見事に脱皮した。あえて使われたモノクロフィルムが、彼女の白い肌と漆黒の髪を質感豊かに切り取り、生と死を鮮やかに対比させて見せた。目に見えない放射能の恐怖にむせかえるような気がした。

 ヒロシマから66年。黒い雨は福島第1原発事故によって再び現実のものになった。放射能の量こそ全く比較にならないほど微量だが、国民は目に見えない不安を共有した。「国と電力会社に裏切られた」とインタビューに答える人も多い。

 そんな安全神話崩壊を皮肉った「ずっとウソだった」という歌がインターネットの動画サイトで一時配信が止まるほど人気を集めている。シンガー・ソングライターの斉藤和義が自身のヒット曲「ずっと好きだった」をパロディー化したものだ。

 教科書やCMは原発が安全だと言っていたが、それはウソだった。くすぐったい黒い雨が降る…という内容でアクセスは既に70万件近く。若者のやり場のない怒りが黒い雨に向けられている。懐かしいあの空をもう一度と。


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