2010年2月21日(日) 東奥日報 天地人



 「最期」。俳優の藤田まことさんが4年前、最後になるかもしれないと出した自伝の題名だ。その通りになってしまったこの本に「役者というのはある程度、ミステリアスでないといけない」とある。

 実人生にも、おやっと思わせる一面が。関西の人にみえたが、生まれは東京だった。初めに目指したのは歌手。主演したテレビのお笑い番組「てなもんや三度笠」で得た人気が落ち目になった後、家族を食べさせるため地方のキャバレー回りを数年していた。

 「必殺−」や「剣客商売」の時代劇シリーズ、「はぐれ刑事純情派」シリーズなどで演じた主人公は、どこか陰があり人生の成功者でもない。そんな役がしっくりくるという藤田さんの人間味や優しさがにじむ演技は、大きな浮き沈みを経た賜(たまもの)だったか。

 戦死した兄からの最後の音信になった葉書(はがき)のコピーを、すり切れるたびにコピーし直して持ち歩いていたというのも、意外だった。自伝を出す直前、藤田さんは兄が船とともに沈んだ沖縄の海を訪れる。最後に投げ入れたのは、たまに手に入ると1個を兄、姉と分け合って戦時中に食べた卵だった。

 緒形拳主演の「必殺仕掛人」が好評だった。原作者の池波正太郎は、藤田さん主演の新しいシリーズが始まると知らされ「俺(おれ)の作品のパクリじゃないか」と激怒したとか。「あっちの世界にいったら、ご挨拶(あいさつ)に伺うことにしますわ」(自伝)。藤田さんは今、池波とは必殺談議、兄とは卵の思い出話をしているのだろうか。


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