• トップ
  • >
  • 天地人のバックナンバー
  • 2018年5月13日(日)

天地人

 絵本作家加古里子(かこさとし)さんの作品で、最も思い出深いのは「からすのパンやさん」である。からすの大家族によるパン屋の繁盛記。80種ほどのパンが見開きいっぱいに描かれた場面では決まって盛り上がる。

 きょうりゅうパンにパンダパン、おちょうしパンやおそなえパンまで。子どもと好きなパンをつかみ出すしぐさをしては、あむあむ、もぐもぐなどとやったものだ。

 加古さんは東大工学部卒の工学博士で「かわ」「海」「地球」といった科学絵本も多く手がけた。「宇宙」は、小さな虫のすむ世界から150億光年の宇宙空間へといざなう構成で、科学的知見に基づく緻密で大胆な描写と平易な文章によって、私たちが生きている空間の広がりを教えてくれる。

 初版は1978年。今ならCG(コンピューターグラフィックス)技術を駆使して表現するような世界だろう。大人になって手にした本だが、その構想力、スケールの大きさに圧倒された。

 創作の原点は、戦争体験にあったという。19歳で迎えた敗戦で、手のひらを返すように態度を変えた大人たちに失望し、これからは子どもたちの役に立ちたいと考えた。「子どもたちは、ちゃんと自分の目で見て、自分の頭で考え、自分の力で判断し行動する賢さを持つようになってほしい」(「未来のだるまちゃんへ」)。今月、92歳で旅立った加古さんの切なる願いである。

モバイルサイトのご案内

広告掲載のご案内