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  • 2018年1月12日(金)

天地人

 カズオ・イシグロ。言わずと知れた昨年のノーベル文学賞受賞者である。5歳まで長崎で育った日系英国人で片言ながら日本語を話すことが、ちまたの話題にもなった。代表作は英国で最も栄誉あるブッカー賞を1989年に獲得した「日の名残(なご)り」。

 などと知ったかぶりして書いたが、実は彼を知ったのは小説でなく、名優アンソニー・ホプキンスが主演を務めた映画の「日の名残り」(93年)である。親独派だったことから戦後糾弾される没落貴族にひたすら尽くす執事。それがホプキンスの役どころだったが、そんなかたくなな執事に思いを寄せる女中頭エマ・トンプソンの抑えた演技が色っぽかった。

 映画をきっかけに著作をあさりロマンチックな作家と決め込んでいたが、英文学者の見立てはそうでもないらしい。「権力に向き合う庶民」がテーマなのだとか。

 そういえば、ノーベル賞授賞式でイシグロ氏は、母親が被爆者であることを告白した上で「原爆の影の下で育った」と核廃絶を訴えていた。社会派なのだ。

 彼に歩調を合わせたわけではなかろうが、機を同じくしてローマ法王も核保有そのものについて初めて批判した。世界は核ゼロへ着実に歩を進めているのだ。翻ってわが国はと目をこらすと、厳しいアジア情勢を盾に核肯定論がもたげている様に愕然(がくぜん)とする。時代に、世界に逆行してはいないか…。

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