| 2010年1月30日(土) |
鳩山由紀夫首相が就任後初めて行った施政方針演説は、「命を守る」との言葉を多用し、いささか情緒的な内容だった。首相の政治理念が色濃く出た演説のようでもあった。 首相は演説の冒頭で、生まれくる命、育ちゆく命を守り、働く命を守りたいと述べた。世界の命や地球の命を守りたい、と力説もした。 国民生活を下支えする政策の必要性を強調し、地球環境対策を積極的に追求することは当然である。命の大切さを誰も否定はしないだろう。 街づくりや福祉分野への市民参加を促す「新しい公共」の考え方を提唱し、地域社会に貢献する日本型企業モデルの構築も呼び掛けた。大事な観点である。 だが、国民が首相の口から本当に聞きたいのは、そうしたことばかりだったであろうか。 国民の目の前には、不況や雇用などに関する現実的な不安が渦巻き、財政や年金、医療・介護など将来にわたる不安も横たわっている。「政治とカネ」をめぐる政権党ツートップの疑惑は、国民の政治不信を増幅させてもいる。 財政について首相は「本年前半には健全化に向けた長く大きな道筋を示す」と述べたが、国民負担のあり方や必要性などには言及しない。年金の再生に関しては、年金記録問題に国家的プロジェクトとして取り組む−と言うだけである。 自らの偽装献金問題については「国民に多大な迷惑と心配をかけた」と陳謝した。しかし、小沢一郎民主党幹事長の資金管理団体をめぐる政治資金収支報告書虚偽記入事件には、一言も触れなかった。 政治資金の信頼性、透明性確保へ向けては「企業・団体献金を含め開かれた議論をする」と述べるにとどまり、踏み込まなかった。これでは首相には「政治とカネ」問題に取り組む意欲がない、と国民は思うしかない。 政権がこの1年間に取り組む政策課題を明らかにするという施政方針演説の性格上、仕方のないことかもしれないが、示された政策は新味に欠け、既に発表した方針の列挙と言わざるを得ない。 国民が心から知りたいのは、現実の課題にどんな処方せんで臨もうとしているのかである。首相の感性や言葉に表れる理念は大切かもしれない。だが、政策をもっと具体的に語り、他党の指導者に論点を投げかけることが必要である。 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題は「日米同盟の深化」に強い意欲を示す首相にとって最重要課題の一つだ。しかし演説では、「政府として5月末までに具体的な移設先を決定する」と繰り返しただけだった。 首相は、28日の記者団の質問に対して「移設先が普天間に戻ることは基本的に選択肢ではない」と語ったという。米側は決着期限まで日本の動きを冷静に見守る考えのようだが、首相は極めて厳しい判断を迫られそうだ。 国会は2月1日から政府4演説に対する各党代表質問、5日から衆院予算委員会の質疑が始まる。課題は多い。国民が納得できる論戦を期待したい。 |