2008年3月1日(土) 東奥日報 社説



■ 危機管理能力が問われる/防衛省の対応迷走

 海上自衛隊のイージス艦「あたご」と漁船「清徳丸」が衝突し、清徳丸に乗っていた父子二人が行方不明になった事故から十日以上たつ。なのに、防衛省の対応がまだ迷走している。不適切な説明をして弁明、訂正する失態を繰り返している。

 隠ぺい工作があったという野党の見方が当たっているかどうかはともかく、はっきり言えるのは防衛省の混乱ぶりだ。

 こんなありさまでは、いざというときに国民の命や財産を守り、国の安全保障を担うはずの防衛省が任務を本当に果たせるのかと心細くなる。これは、防衛省に最も必要な危機管理能力が問われる深刻な問題だ。

 事故当日、海上事故の捜査権限を持つ海上保安庁に事前連絡した上で、事故の報告を求めるためあたごの航海長を防衛省にヘリで移送した。防衛省は当初そう説明していた。

 だが、連絡を受けたのは移送後というのが海保の見解だ。石破茂防衛相は、防衛省が海保の了解を得ないで航海長から聴取したと認め「必ずしも適切でなかった」と国会で釈明する。海自の幹部はその後、聴取の前に海保に連絡したという報告は虚偽とは思わないと否定する。

 事情聴取は、海上幕僚監部が防衛相の了承なしで行い、続いて防衛相らが再聴取したそうだが、防衛相はそうした経緯を当初は説明していない。増田好平防衛事務次官は、聴取した記録は存在しないと言った翌日、自分の弁を翻している。

 説明が二転三転する。これでは何が何だか分からない。聴取は口裏合わせや情報操作のためか、とみる野党の追及が厳しさを増していくのは当然だろう。

 事故前の見張りが不十分などのミスが重なって清徳丸などの発見が遅くなる。事故の第一報が防衛相や福田首相に入ったのは一時間半から二時間後という伝達遅れも既に分かっている。

 加えて、不明の二人を衝突現場で捜索中のヘリ四機のうち一機はあたごの航海長の移送に、別の一機は事故の後あたごに乗り込んだ護衛艦隊幕僚長の迎えに使われたという。

 一刻を争う状況で現場を一−二時間離れる。人命を救うより防衛省への報告などを重視した対応は許されまい。しかも、この経緯は伏せられていた。

 これらを考え合わせると、緊急時に事態を正確に伝え、どう行動するかを首相や防衛相が早く決められる条件を整える危機管理の仕事を防衛省に任せていいかと怒りがこみ上げてくる。

 実力組織の自衛隊を政治の力で掌握して動かす。その内容を国会に示して論議することで主権者の国民が判断できるようにする。そんな「文民統制」が機能していないのでは、という不信も膨らんでいくばかりだ。

 海自は、事故を教訓に全部隊の安全態勢の総点検を行った。防衛相は、事故の再発防止対策に区切りが付いた段階で引責辞任する考えをほのめかした。

 だが、根本的に求められているのは国民に信頼される危機管理ができるようにすることだ。そのために、官邸と防衛省の連絡のあり方、内局(背広組)と陸海空の幕僚監部(制服組)に分かれている防衛省のあり方の総点検を急いで進めるべきだ。


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